遠藤 功 氏
早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機、複数の外資系戦略コンサルティング会社を経て、現職。2005年から2016年まで早稲田大学ビジネススクール教授を務めた。2020年6月末にローランド・ベルガー会長を退任。7月より「無所属」の独立コンサルタントとして活動している。多くの企業のアドバイザー、経営顧問を務め、次世代リーダー育成の企業研修にも携わっている。
遠藤氏は、経済が急速に収縮し、元に戻らないかもしれない、戻るとしてもかなりの時間がかかるという話に再び触れ、経済が縮小し、元に戻らないかもしれないということは、縮小してしまった需要も戻らないと考えるべきであり、企業は新しい需要を作り上げる必要があると強調した。
新しい需要を作り上げるには、営業部門が重要な役割を果たす。新しい事業、新しい商品、新しいサービスのきっかけは現場にあり、顧客の新しいニーズ、顧客が求めているものを感じ取れるのは営業マンだというのだ。そして、この営業の「アンテナ機能」というべきものがなければ、需要創造はできないと断言した。
さらに遠藤氏は、「日本の営業組織は効率や生産性が低いと言われてきた」と語り、これを大きく改善し、生産性を一気に高めなければならないと訴え、そのための道具として、デジタル関連のサービスやツールを挙げた。
また、新型コロナウイルスで日本は立ち止まってしまったが、だからこそ見えてきたものがある。例えば、「会社は要らないものだらけ。不要不急の塊だったんだな」という気付きだ。不要な会議、不要な出勤、不要な出張、不要な書類、不要な業務……いくつでも思い浮かぶという人もいるだろう。
遠藤氏は、これまでの営業活動でも無駄な会議、無駄な書類などはたびたび議論になってきたが、その要らないものを本気でなくすことができないでいたと語り、これからは効率や生産性を高めるためにも、不要不急というものをどれだけ取り除いていけるかが大きなテーマになるだろうと予測した。
営業職はなくならない。ただし仕事の中身が大きく変わる
不要不急をなくしていくと、営業活動も要らないのではと考える人もいるだろう。しかし遠藤氏は、「営業という仕事が要らなくなるとは考えていないが、営業の役割や機能、仕事のやり方などが大きく変わっていくだろう」と話す。新型コロナウイルス以前の営業活動は売り込む「プッシュ(Push)」だったが、自然に売れる「プル(Pull)」に移っていく。新型コロナウイルスの影響で、顧客を訪問して売り込むということがほとんどできなくなってしまった。だから、今後の営業は商品が自然に売れていく環境を作ることも仕事になるということだ。
遠藤氏は営業職の職務内容の変化について、「営業というのは広い意味でのマーケティングの一部。単純にお客さまに商品やサービスを売るということではなく、お客様に認知してもらって、お客様に興味を持ってもらって、お客様に情報を提供して、そしてお客様に選んでいただく。こういう広い意味でのマーケティングの中の、一つの機能だと捉える必要がある」と語った。
そこで紹介したのが、フィリップ・コトラーの「マーケティング4.0」である。「2010年以降のマーケティングは“マーケティング4.0”に進化し、顧客は自己実現のためにモノやサービスを買うようになる」という予測だ。営業マンが何か売りたくても、顧客はすでにモノを持っているし、サービスも使っている。その上でモノやサービスを買うときは、自己実現が大きな動機になるということだ。
例として遠藤氏が挙げたのが、ナイキのランニングシューズ。なぜ、あのシューズが売れるのか? オリンピックに出るような世界の一流選手が使っているものと同じシューズを自分も履ける。つまり自己実現ができるからだ。
さらに、マーケティング4.0の時代になると、商品やサービスに満足した顧客が、その良さを他者にアピールしてくれる。つまり営業をしてくれるという。営業マンが商品やサービスの良さを一生懸命アピールしても、顧客にはなかなか響かないが、実際に商品やサービスを買って使った人が、自分の経験や自分の体験として話すと、「買おう」と思う人が結構いるということだ。
こうした現象はBtoCだけでなく、BtoBの世界でも起きているという。遠藤氏がコンサルティング会社の経営をしていた頃、良い顧客とプロジェクトに取り組んで、完遂すると、「あのコンサルティング会社、結構使えるよ」とか「こういう分野が得意だよ」と、顧客が勝手に宣伝、営業をしてくれることが何度もあったという。