ブルーオーシャン戦略の泣き所!
青ければ青ほど早く赤くなる理由
楠木 ワークマンは、もともと高機能で低価格の製品をプロ客に販売していました。
それを一般向けにも売るようになり、ブルーオーシャンを切り拓いたといわれています。
でも、ブルーオーシャン戦略の脆弱な点は、ブルーがより深ければ深いほどレッド化が速くなることです。
市場を再定義してブルーオーシャンをつくる。それはすばらしいのですが、儲かれば儲かるほど競合相手もやる気になる。次々にブルーオーシャンに入ってきます。
土屋 はい。ワークマンはもともと競争しない会社ですから、そのことに最大の注意を払っています。
楠木 では、なぜブルーがブルーであり続けるのか。
この問いが重要です。
ブルーオーシャン戦略を継続させるためには、規模の経済、範囲の経済、パテントプロテクション、先行者優位など、模倣障壁を構築することが大切だといいます。そりゃそうです。しかし、言うは易く行うは難し。
たとえば、なぜ規模の経済が達成できるのか。その裏にあるロジックが大切です。
土屋 ワークマンが高機能・低価格の製品で成功していることは、他社はよくわかっているわけですからね。
楠木 この本でワークマンの戦略ストーリーをじっくり読み解くと、商品企画から店舗で消費者が買うところまで、そうした違いが明確な「なぜ」でつながっていることがわかります。
たとえば、プロ向けの商品だから長期継続販売ができる。
長期継続販売だからこそダントツ商品が開発でき、大量生産によるコストダウンが可能になる。
ダントツ商品だからこそ、値引きに依存しなくてすむ。
価格を一定にしているからこそ、高精度での需要予測をはじめとするデータ経営が生きる。
データ経営だから加盟店のオペレーションを軽くできる。
だからフランチャイズの加盟店がついてくる。
だから無理なく店舗の拡張ができる――。
土屋 すごい分析ですね!
楠木 これはほんの一例です。
表層にある商品や店舗は簡単に見ることができます。
見えるものであれば模倣できますが、深層にある戦略ストーリー、とりわけ個別の打ち手をストーリーへとつなげていく論理はなかなか見えない。
本当に優れた戦略ストーリーは一夜にしてならず。時間をかけて構築されてきたものです。ワークマンは、戦略ストーリーのロジックを読み解く面白さをわからせてくれる稀有な事例だと思います。
楠木 建(くすのき・けん)
一橋ビジネススクール教授
専攻は競争戦略。企業が持続的な競争優位を構築する論理について研究している。大学院での講義科目はStrategy。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部専任講師(1992)、同大学同学部助教授(1996)、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授(2000)を経て、2010年から現職。1964年東京都目黒区生まれ。著書として『逆・タイムマシン経営論』(2020、日経BP、杉浦泰との共著)、『「仕事ができる」とはどういうことか?』(2019、宝島社、山口周との共著)、『室内生活:スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる:仕事を自由にする思考法』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)、Dynamics of Knowledge, Corporate Systems and Innovation(2010,Springer,共著)、Management of Technology and Innovation in Japan(2006、Springer、共著)、Hitotsubashi on Knowledge Management(2004,Wiley、共著)、『ビジネス・アーキテクチャ』(2001、有斐閣、共著)、『知識とイノベーション』(2001、東洋経済新報社、共著)、Managing Industrial Knowledge(2001、Sage、共著)、Japanese Management in the Low Growth Era: Between External Shocks and Internal Evolution(1999、Spinger、共著)、Technology and Innovation in Japan: Policy and Management for the Twenty-First Century(1998、Routledge、共著)、Innovation in Japan(1997、Oxford University Press、共著)などがある。「楠木建の頭の中」というオンライン・コミュニティで、そのときどきに考えたことや書評を毎日発信している。
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を本書で初めて公開。本書が初の著書。