意図的に非合理をつくる

楠木 もし、端から見ても合理的なことだけで戦略が構成されていれば、とっくにワークマンみたいな会社は出てきています。昨日、今日儲かりだしたわけじゃないですから。
非合理だった要素が、後から見たとき、ストーリー全体の中では合理的になる。
私見では、競争戦略の醍醐味は、この「部分非合理」を全体のストーリーの中で「全体合理性」に転化していくところにあると考えています。

土屋 ワークマンは歴史の積み重ねの中で、自然にそのような戦略が構築されていったように思います。
たとえば「しない」という文化があって、それに沿ってロジックを組み上げたら、一見非合理な決断になったように。そうではなく意図的に非合理をつくり出すことはできますか。

楠木 戦略を策定するとき、他社と違いをつくろうとします。
でも、それが儲かることであれば、みんなやっているはず。ようするに「戦略のジレンマ」です。このジレンマをどう乗り越えるか。そこに経営者の腕の見せ所があります。
ストーリー全体と1つひとつの打ち手というか要素を区別して考えると、とりあえず以下の4パターンに整理できます。

1.1つひとつの要素が非合理で、ストーリー全体も非合理的
2.1つひとつの要素が合理的で、ストーリー全体も合理的
3.1つひとつの要素が合理的だが、ストーリー全体は非合理的
4.1つひとつの要素には非合理が含まれるが、ストーリー全体も合理的

1は明らかに失敗するので論外です。
2は確かに賢いのですが、明らかによいことは、みんながやるので違いがなくなり、結局はたいして儲からない。競争の中で、そのうち3のパターンに陥ってしまいます。
優れた戦略は4です。ストーリー全体をよくよく読み解くと、儲かる筋はばっちりできている。合理的です。ところが、1つひとつの要素を点検すると、その商売に詳しい人ほど非合理的と思うものが含まれている。

土屋 なるほど。普通に戦略を立てると、2か3になりがちですね。