スピード感を持って期限を守り、上司の依頼にフレキシブルに対応し、大きな目標を達成する。社員全員がそう動いてくれれば理想なのに……と考えるリーダーや経営者も多いと思う。
しかし、今注目のワークマン急成長の仕掛け人・土屋哲雄専務は、「厳しすぎる期限や数多くの目標が社員の成長を阻み、社内生産性を低下させるワナだ」と警告する。
アパレルの閉店・撤退が相次ぐ中、「高機能・低価格」という空白の4000億円市場を開拓し、10期連続最高益を達成。国内店舗数でユニクロを抜いたワークマンの異例ともいえる急成長の秘密は、期限なし・ノルマなし・残業なしの「しない経営」にあった。
今回は、ワークマンの経営理論とノウハウが詰め込まれた土屋専務の処女作『ワークマン式「しない経営」――4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』の大ブレイクを記念し、頑張らずに社内の生産性を高める秘密を聞いた(聞き手&構成・川代紗生/撮影・疋田千里/編集・寺田庸二)。
期限やノルマを設けて
目標達成しても意味がない
──「期限やノルマを設けない」と決めたのは、いつでしたか。
土屋哲雄(以下、土屋):2012年にCIO(Chief Information Officer:企業の情報戦略における最高責任者)としてワークマンに入社した後、2年間、「何もしない」時期がありました。
入社前、商社で働いていた30年間は、常に時間に追われ、興味があるものや流行っているものには片っ端から手をつけるジャングル・ファイターだったのです。
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を『ワークマン式「しない経営」』で初めて公開。本書が初の著書。ダイヤモンド書籍オンラインでも大好評連載継続中。
けれども、そういう働き方では限界が見えてきた。幸いなことに、ワークマンの創業者で、叔父の土屋嘉雄会長からは「この会社はうまくいっているので、何もやらなくていい」といわれたので、最初の2年間は、会社を改革する準備期間に当てられました。
いろいろなデータを読みながら、社員にやりたいことをヒアリングした結果、自分自身の考え方も100%変わりました。
──ビジネスにおいては「早く成果を出す」ことが重視されがちですが、ワークマンでは「期限なし・ノルマなし・残業なし」が徹底されていますよね。どのように実現しているのでしょうか?
土屋:「大きな成果」を「短い時間で」なんてありえません。大きな成果を出したいなら、長い時間をかける。時間が足りなければ、小さな成果にしかなりません。
ワークマンでは「しない経営」を徹底していますが、それは社員に対しても同じ。
社員のストレスになることはしません。期限、短期目標、ノルマもありません。
ノルマや期限があると、無理やり頑張って達成する人が出てくるでしょう。それでは意味がない。特別できる人や異常に頑張った人しかノルマを達成できない仕事のやり方では、他の人に引き継げないからです。
ワークマンでは「頑張る」のは禁止です。
「頑張ってできても意味がない」と考えているからです。
ワークマンは上場企業(東証ジャスダック)ながら、決算発表を1週間延ばしました。
「決算を早くしろ、でも残業するな」と言ったって無理です。
残業を減らすには、決算の発表日を延ばすしかない。
「残業せずに、決算期は絶対に守れ」と個人の努力に頼るのは経営ではない。
経営者は、トレードオフを覚悟しなければならない。
経営には必ず犠牲を伴う。あれもこれもではなく、何かをあきらめて何かに集中する。
今こそ、「しない経営」が必要なのです。