メディアは感染防止ばかりに偏り過ぎないように
そして、多くのメディアはそろそろ報道姿勢を考え直してもよいのではないかと思います。どのメディアもいまだに新規感染者数の多さと、その延長で政府の対応のマズさを日々大きく報道していますが、視聴率のためとはいえ、それで一般市民のコロナに対する恐怖感を必要以上にあおり続けるのはいかがなものでしょうか。
インフルエンザと同様に冬になれば感染者数が増えるのは元から分かっていたし、かつ欧米と比べると日本の感染者数は格段に少ないことを考えると、私は連日の報道に違和感しかありません。
もちろん、重傷者と高齢者は徹底的に守らなければならないし、医療崩壊を絶対に起こしてはいけないのは間違いありません。
ただ、その観点からも、例えば旭川市や大阪府がコロナで自衛隊の出動を要請したことを報道する際も、それだけ感染が手に負えない状況であるかのように報道して国民の恐怖をあおるよりも、欧米と比べて格段に感染者数が少ないにもかかわらず自衛隊が出動しなければいけなくなるような脆弱な医療体制や、それをもたらした厚生労働省の政策の失敗を冷静に分析し、政府が今やるべきことを提言すべきではないでしょうか。
かつ、メディアの政権批判がちょっとひどすぎます。例えば、第3次補正予算の財政出動の規模感は、30兆円を超えるGDPギャップを埋める観点からは適切な数字であるにもかかわらず、多くの新聞が「バラマキが過ぎる」といった批判ばかりの報道をしていました。
新政権発足からしばらくの間は評価する報道で持ち上げて、数カ月たったら一気におとしめてガンガン批判するというのはメディアの常套手段ですが、平時ならともかく、今は百年に一度の疫病の流行という非常時、かつ、いかにあと半年を乗り切るかという大事な時期です。
もちろん、非常時だから政権批判するなとは言いません。むしろ正当な批判はどんどん行うべきです。ただ、コロナに対する人々の恐怖感ばかりあおって、結果的に感染防止と経済活動の両立のバランスを大きく感染防止の側に傾かせたり、ロジカルでない政権批判を続けて支持率を引き下げ、結果的に政策自体を不安定にさせるというのは、いかがなものでしょうか。
とにかくあと半年が対コロナの最後の勝負です。メディアも私たちも、来年前半の最後のひと頑張りに向け、いかに力を合わせて乗り切るかをもっと考えるようにすべきではないでしょうか。
(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授 岸 博幸)