こう書くとFCEVには何のメリットもないではないかと思われるかもしれない。が、日米欧中の巨大市場が低炭素に向けての動きを急激に活発化させていることで、FCEVに「神風」が吹く可能性が出てきている。それはエネルギーの利用効率とはまったく別のレイヤーでの低炭素化。効率など悪くても関係ない、CO2を大気開放しさえしなければ、それで十分にバリューが出るという流れだ。

大量普及させるためには
高いハードルが二つある

 今日、CO2排出量の少ない発電方法としては、風力、太陽光、地熱、水力などの再生可能エネルギー、および原子力がある。厳密に言えばこれらもCO2排出量が完全にゼロというわけではないが、発電量1kWhあたりの原単位では燃焼方式の発電に比べるとゼロに限りなく近い。効率が悪く、水素製造と使用に大量の電力を使ったとしても、CO2排出量は内燃機関を使ったクルマよりはるかに低くなる。大量普及させられれば、世界各国に厳しい温暖化ガス排出規制を課すパリ協定の順守には役立つであろう。

 ただし、大量普及させるためには高いハードルが二つある。

 水素価格の引き下げとFCEVに燃料を補給する水素ステーションの整備である。

 水素価格の引き下げは非常に難しい。原料調達から生産、輸送、補給までのトータルで見ると、1kgあたり税込み1200円前後という現状の価格でも足が出るくらいなのだ。

 価格引き下げのアイデアの一例がオーストラリアなどで産出される、石炭の一種で利用価値の低い褐炭を原料に水素を作るというプラン。褐炭は自然発火しやすいため輸送に向いておらず、価格が非常に安い。褐炭の産地に水素生産プラントを作り、それを日本に輸送すれば水素価格を劇的に下げられる。水素製造時には大量のCO2が出るが、それを大気開放せず地中に埋めるCCS処理を行えば、CO2排出量を増やさずにすむ…という皮算用である。

 この話、実は目新しいものではなく、京都議定書が正式発効した2000年代にはすでに構想として出されていたもの。10年以上経ってなお将来に向けた秘策のような感じで語られていること自体、いかに水素プラットフォームが進展していなかったかの表れというものだが、水素を少しでも普及させるためには水素価格を少なくとも現在の半分程度、すなわち普通のハイブリッドカーより安く走れる水準にまで引き下げなければ話にならない。その決め球のひとつとして、何とかモノにしたいところであろう。また、原子力や再生可能エネルギー由来の電力価格の劇的な低下、熱分解で水から直接水素を取り出せる超高温原子炉の実用化なども、望みは薄いものの達成を期待したいところだ。

 水素ステーションの整備も、クルマの特性である利便性を上げるうえで必須項目。よく、クルマとステーションでニワトリが先か卵が先かといった議論がなされることがあるが、発明の順番はともかく本気で普及させたいならステーションが先に決まっている。