流動比率が高く売掛金と在庫金額が多い会社ほど
短期の安全性に問題がある

林教授 それに、流動資産にしても、流動負債にしても、1年に一度だけ現金化するわけではない。通常は1、2ヵ月に一度は入れ替わる。決算日における流動比率がよかったり、悪かったりする。こんな比率を鵜呑みにするのは危険と言っていい。

カノン 旅行で写した写真の中に、別人みたいに美人に撮れている場合があるんです。これと同じことですか?

林教授 なんとも微妙な喩えだが、そういうことだ。

カノン では、流動比率を鵜呑みにできない2つ目の理由はなんですか。

林教授 流動資産の中身だ。この中には、なかなか回収できない売掛金や季節外れで売れる見通しの立たない商品在庫が含まれているかもしれない。これらが多ければ運転資本は多くなるし、流動比率は高くなる。だが、現金は入金されない。

カノン たしかにそうですね。1年以内に現金化できないとしたら、短期の支払い能力は悪化する一方です。

林教授 お金の流れが滞っているんだ。あえて言えば「便秘状態」だね。

カノン 納得したくない喩えですけど、腑に落ちました。つまり、中身を吟味しないと流動比率とか、運転資本だけでは、全く逆の判断をしてしまうんですね。

林教授 ボクの経験から言えば、流動比率が高く売掛金と在庫金額が多い会社ほど短期の安全性に問題がある、と言えるね。

林 總(はやし・あつむ)
公認会計士、税理士
明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授
LEC会計大学院 客員教授
1974年中央大学商学部会計学科卒。同年公認会計士二次試験合格。外資系会計事務所、大手監査法人を経て1987年独立。以後、30年以上にわたり、国内外200社以上の企業に対して、管理会計システムの設計導入コンサルティング等を実施。2006年、LEC会計大学院 教授。2015年明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授に就任。著書に、『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』『美容院と1000円カットでは、どちらが儲かるか?』『コハダは大トロより、なぜ儲かるのか?』『新版わかる! 管理会計』(以上、ダイヤモンド社)、『ドラッカーと会計の話をしよう』(KADOKAWA/中経出版)、『ドラッカーと生産性の話をしよう』(KADOKAWA)、『正しい家計管理』(WAVE出版)などがある。