ためたキャッシュは社員へ。
めざせ平均年収1000万円!

土屋:仕組み化についても、私はなるべく内部の人材を活かしたいと思っています。
私を含め経営者は、社内の人材が頼りになるということを忘れがちではないかと思います。ワークマンで社員と話してみて思うのは、社内人材は自社のことや業界のことをよく知っていることです。社外の人材や意見は一見よく見えるのですが、社外の人材をヘッドハンティングしてきても、ワークマンに合った仕事ができるまでには最低2年はかかります。社員の能力を信じて、時間をかけても能力をフルに引き出せばいいと思いました。

御立:なるほど。

土屋:入社して社員と話していて率直に優秀な人が多いと思いました。ポテンシャルを感じたのです。そのポテンシャルをうまく引き出せば、ものすごいチャンスになります。だから全員参加で会社の変えていくことができるのではないかと思いました。

御立:そうですか。

土屋:そのために賃上げをしました。客層拡大が成功し、将来会社が伸びるから先に社員の給料を上げました。当時ワークマンの平均給与は約570万円と低かったのですが、5年間で100万円のベースアップを約束し、それを本気でやりました。現在の平均給与は約720万円になっています。1000万円になるまでは賃上げをすると決めています。

御立:会社の成長を見越して、先に報酬を払うことにしたわけですね。

土屋:とことん無駄を減らしてつくったキャッシュをまずは賃上げで使いました。

御立:社員には本気度が伝わったことでしょう。

土屋:縄文の精神で新業態に行ったら、これまでの上司の勘と経験が使えません。全員でデータを活用しながら、マニュアル化、仕組み化を図って、生産性を上げ続けることに意味があります。社員がこれまで培ってきた弥生力をこれからも存分に発揮してもらわなくてはなりません。

御立:土屋さんのお話はとても勉強になります。次回はいかに仕組み化を図ったを聞かせてください。

御立尚資(みたち・たかし)
ボストン コンサルティング グループ シニア・アドバイザー
京都大学文学部米文学科卒。ハーバード大学より経営学修士(MBA with High Distinction, Baker Scholar)を取得。日本航空株式会社を経て、1993年BCG入社。2005年から2015年まで日本代表、2006年から2013年までBCGグローバル経営会議メンバーを務める。BCGでの現職の他、楽天株式会社、DMG森精機株式会社、東京海上ホールディングス株式会社、ユニ・チャーム株式会社などでの社外取締役、ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン専務理事、大原美術館理事、京都大学経営管理大学院にて特別教授なども務めている。経済同友会副代表幹事(2013-2016)。著書に、『戦略「脳」を鍛える~BCG流戦略発想の技術』(東洋経済新報社)、『経営思考の「補助線」』『変化の時代、変わる力』(以上、日本経済新聞出版社)、『ビジネスゲームセオリー:経営戦略をゲーム理論で考える』(共著、日本評論社)、『ジオエコノミクスの世紀 Gゼロ後の日本が生き残る道』(共著、日本経済新聞出版社)、『「ミライの兆し」の見つけ方』(日経BP)などがある。

土屋哲雄(つちや・てつお)
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を本書で初めて公開。本書が初の著書。