米国、中国、インド、欧州、東南アジア、そして日本――世界を代表する50社超の新興企業と、その革新を支える「技術」「ビジネスモデル」を網羅した決定版として話題の、『スタートアップとテクノロジーの世界地図』
今回は同書より、クラウド化と5Gによって激変が予想される、ゲーム業界の動向を解説する。

ゲームは「据え置き型」から「ストリーミング配信」へ

 ここ数年、NetflixやAmazon Prime Video、Disney+、Apple TVなど、ストリーミング動画配信サービスが次々と登場している。インターネットが高速化したことで高画質の映像が配信できるようになったことが要因だ。従来のVHSやDVDといったメディアを専用再生機器で再生するという流れがもはや懐かしく感じられる日も近いかもしれない。同じようなストリーミングの流れは、ゲームにも見られる。

 これまで、ゲームをプレイするには店頭やWebサイトなどでソフトウェアを購入し、専用の機器を使うのが当たり前だった。コントローラーからの入力を処理し、画面上に出力するまでの動きは、ゲーム機の処理能力が高ければ高いほど速くなめらかになる。近頃のビデオゲームはリアルさを追求するため、引力や空気抵抗といった物理現象をシミュレートしたり、3次元グラフィックスを処理したりする。これにはかなり大掛かりな計算処理が必要だ。ビデオゲームの専用機器は、任天堂の「ファミリーコンピュータ」から「ニンテンドースイッチ」までの進化に見られるように、処理能力を大きく向上させてソフトウェアの進化に対応してきた。

 そこへ登場したのが、2019年11月に欧米でサービスを開始したGoogleのゲーム配信サービス「Stadia(スタディア)」だ。月額9.99ドルのサブスクリプションモデルを採用したStadiaは、これまでゲームをプレイするのに必要であったゲーム機を不要とした。

クラウド化で処理を高速化、
データ活用でユーザー満足度アップも

 ゲームのストリーム配信は動画配信と異なり、ユーザーの操作をゲームにリアルタイムで反映しなければならない。コントロールした結果を動画として組み立てるために要する時間に加え、ネットワークを経由して画像を送るため、物理的に「遅延」が発生してしまう。スピード感を大事にするゲームソフトの場合、遅延は非常に大きな問題となる。

 Stadia以前にも多くの企業がゲームのストリーム配信を試みてきた。その先駆けとなったのが、2000年にフィンランドで設立されたG-clusterだ。残念ながら当時はプレイできるゲームソフトに限りがあり、接続も遅かったため大きなヒットには至らなかった。また、2009年にイギリスのベンチャー企業が「OnLive」をリリース、また、2010年にはアメリカで「Gaikai」が開始されたが、いずれもソニーに買収されている。そのソニーは2014年に「Play Station Now」というストリーミングサービスを開始したが、今ひとつヒットにはつながっていない。

 ゲームのストリーム配信の伸び悩みを打ち破ろうとするのがStadiaだ。Stadiaは、世界シェア1位を誇る「Play Station 4」や3位の「Xbox One」を超える処理をクラウドで実現。半導体メーカーのAMD(アメリカ)と共同開発したグラフィックスチップを採用している。

 また、物理的な距離による遅延を少なくするため、既存のデータセンターのほかに、ユーザーに近い場所にミニサーバを設置することを明らかにした。これは、アメリカで長らく光ファイバー事業を手掛けてきたGoogleだからこそできる試みだ。Googleではこうした遅延対策のほか、動画配信サービス「YouTube」のゲーム解説動画からユーザーを誘導するしかけをつくり、サービスへの導線を張っている。

 Googleの動きに対抗するように、2019年5月にはソニーとMicrosoftがクラウドゲームなどで戦略的提携を発表した。また、Appleもゲームの定額制サービス「Apple Arcade」を発表しゲーム市場に参入しようとしている。

 ゲーム市場が据え置き型のゲーム機器からストリーム配信へ移行することは、ユーザー側と企業側それぞれにメリットが生まれる。ユーザー側としては、高額なゲーム機を買う必要がなくなるという点。そして、企業側ではユーザーがプレイしたデータを活用してサービスを向上させることができる点だ。

 動画配信のNetflixでは、クラウドサーバ上で処理される動画の再生・停止や巻き戻しなどのデータを解析してオリジナルコンテンツの制作にいかしたり、ユーザーの好みに合った動画をすすめることで顧客満足度を高めている。同じように、ゲームのストリーム配信でもプレイヤーがどうゲームを遊んでいるかを解析し、改善につなげることができる。たとえば、アクションゲームをプレイしている時に難易度が高すぎてつまずいている箇所、逆に簡単すぎて飽きられそうな箇所を識別して修正するといったことができるのだ。

 一方で、ストリーム配信には高速通信が維持できない環境ではゲームが途切れてしまうというデメリットもある。しかし、クラウドならゲームデータが自動的に保存されるため、1人用のゲームならば問題なく再開できるだろう。

photo: Adobe Stock

5Gで加速するストリーミングとAR技術

 2020年にはAmazonとFacebookが「Stadia」と同様のサービスを発表している。多くの企業がゲームのストリーム配信を事業化しはじめた背景には、クラウド化のほかにもう1つ技術的な理由がある。次世代通信技術「5G」だ。スマホを使って家の中でも外出先でも同じゲームをプレイするためには、高速かつ低遅延の5Gは必須の技術となる。

 ちなみに、5Gによる通信速度の高速化は、『ポケモンGO』といった位置情報ゲームのAR技術をより踏み込んだものにするだろう。Nianticがリリースし世界中でヒットした『ポケモンGO』や、スクウェア・エニックスがスマホゲーム大手のコロプラと共同で開発した『ドラゴンクエストウォーク』は、AR技術を応用し、キャラクターが現実世界に飛び出したような演出をしている。

 これらのAR技術は「おまけ」のようなものにとどまるが、Microsoftが約2500億円で買収したMOJANGが開発した『マインクラフトアース』は、AR技術を使って有名ゲーム『マインクラフト』の世界を現実世界で表現する。こうした位置情報ゲームも、高速、低遅延、飛躍的な多人数接続ができる5G対応のスマートフォンであれば多人数で同時にARの世界でプレイすることができる。

任天堂の苦境もありえる

 今後、ゲーム機そのものは残るとしても、演算処理はクラウド上でおこなう時代が到来するだろう。近年人気となっているプロのゲーム競技「eスポーツ」がより盛んになっていけば、ゲームのプレイ動画を楽しむという需要も高まり、ますますクラウドへのシフトは進む。そうなると、ゲームのプラットフォームを差別化する要素となるのは、クラウドサービスの処理性能と、独自のコンテンツの有無の2点に絞られる。

 これまでのメーカーは、ニンテンドースイッチやPlayStationといったゲーム機を売り、ソフトウェアで利益を上げるビジネスモデルを採っていた。そうした意味では、任天堂は「プラットフォーマー」の先駆けだったといえよう。しかし、現在プラットフォーマーとして圧倒的地位を誇るのは、AmazonやGoogle、Microsoftなど、高速処理が可能なクラウドサービスを展開している企業だ。クラウドサービスの処理性能では、日本は厳しい戦いを強いられるだろう。

 もう1つの独自コンテンツについては日本が有利だ。これまでにも、『スーパーマリオ』や、『ポケットモンスター』『ゼルダの伝説』『大乱闘スマッシュブラザーズ』『ファイナルファンタジー』『スプラトゥーン』『モンスターハンター』など、数々のヒット作を世界市場で生み出してきた。

 今後、日本がゲーム市場で世界と戦うためには、プラットフォームになり得るかどうかがカギとなる。クラウド化と5Gによって加速していくストリーミングゲームサービスは、日本メーカーにとっての転換点となるだろう。