アンバサダーと製品のどちらに
ピントを合わせるか

御立:私の感覚では、30人のサポーターの周辺に次の300人がいるはずです。もしかしたらこちらをサポーターと呼ぶべきかもしれません。その300人のサポーターが「いつか30人のアンバサダーになりたい」と思うようになったら相当強いと思います。

土屋:たしかにおっしゃるとおりですね。定期的にアンバサダーとサポーターの入替を行うのもいいかもしれません。じつは最近、製品よりアンバサダーを宣伝したほうがいいと思い、アンバサダーに焦点を当てたテレビCMに1億数1000万円のお金を使いました。このとき社内で、「それならアンバサダーに1人300万円ずつ渡して宣伝してもらったほうが効率よいのではないか」という声もありました。

御立:土屋さんはどう考えましたか。

土屋:アンバサダーには報酬を支払わないことが大事だと考えています。発信した内容の信頼性が高いからです。私は「製品が気に入らなければ文句を言ってもいい」と言っています。

御立:そのとおりですね。

土屋:アンバサダーのCM撮影のとき究極の選択がありました。ディレクターから「製品がきれいに見えたほうがいいか、アンバサダーがカッコよく見えたほうがいいか選択してほしい」と言われました。

御立:どちらを選びましたか。

土屋:アンバサダーです。製品の色は変わってもいいですが、アンバサダーの肌色をきれいに見せてください、とお願いしました。

御立:その話を聞いて、キットカットの宣伝を思い出しました。
かつてネスレ日本の社長だった高岡浩三さんがゴルフ番組をつくったことがありました。資金はなかったので電通、博報堂などの代理店は入れず、直接製作プロダクションに依頼し、ワンクール13回分を超低予算でつくりました。

土屋:おもしろいですね。

御立:出演者は奥田靖己(おくだ・せいき)プロとその弟子で、キットカットのアンバサダーのようなチームをつくりました。
彼らのゴルフバッグには「キットカット」のロゴが入っています。その人たちが普通にゴルフのプレーをするのですが、見ていておもしろい。

土屋:この番組はどのようにオンエアされたのですか。

御立:キー局の枠を買うと億単位のお金がかかります。そこで地方局に無料で配り、空いている枠で放送してもらいました。
CMの効果を図る目安としてGRPがあります。これはある1本のCMを一定期間で流したときの視聴率の合計で3000GRPが1つの目安とされています。ゴルフ番組は普通のCMとは違うので単純な比較はできませんが、1年間でこの目安を軽々超えたといわれています。コストはおそらく1000万円かかっていないはずです。

土屋:高岡さんはマーケティングの天才ですね。

御立:先ほど土屋さんが製品よりアンバサダーを宣伝しようとおっしゃっていましたが、その発想は、このゴルフ番組に近いものがあります。
視聴者はキットカットが見たいわけではなく、キットカットがサポートしているゴルファーが見たいのです。番組を見ているうちにアンバサダーのファンになり、彼らがツアーに出場するのを応援します。だからアンバサダーに光を当てたほうがいいと思います。