なぜこれほどまでに、アパレル店員にとって不相応で、使い勝手が悪いのか。その理由の一つが、KF健保を仕切っているのは、同じアパレル業界といえども、ほとんどが日本橋馬喰町界隈の“卸問屋”の面々であることだ。
「KF健保は元々、衣料品の卸問屋という中小零細の経営者の健保組合なので、生活の中心は東京で、加入者は平均年齢が高く、男性が多く、扶養家族が多い。かたや、アダストリアの従業員は8割が若い女性で、扶養家族が少なく、生活圏は全国に散らばっています。KF健保を作った卸売りの方々は、全国に加入者が広がることを当初から想定していなかったので、アダストリアが成長する中で、ミスマッチが埋めがたいほどに広がったのでしょう」(同前)
単一健保の設立で
年間保険料は2万円減
しかし、現在のKF健保を支えているのはアダストリアのようなアパレル小売企業である。KF健保の加入者8万6000人のうち、アダストリア従業員の占める割合は1割を超えている。KF健保の加入者の半数以上は、アダストリアと同様に、各地方に店舗網を持ち、多数の従業員を抱えるアパレル会社の従業員が占めている。
ユナイテッドアローズ(約4200人)、『コムサ』のファイブフォックス(約3600人)、トリンプ・インターナショナル(約2800人)、ビームス(約1500人)、ウィゴー(約2500人)、サマンサタバサ(約1500人)、トゥモローランド(約1500人)…などだ。
これらの会社の加入者はアダストリアと同じような不満を持っているはず。仮に不満や要望がKF健保に寄せられていなくても、自分たちのサービスが加入者の大半であるアパレル店員にマッチしていないことは、容易に想像できたはずだ。
そこでアダストリアはKF健保を脱退し、自社で単一健保の設立を計画。これにより、契約診療機関を従来のKF健保の約600カ所から3000カ所に拡大させ、健診の受診率を向上させる。インフルエンザの予防接種の自己負担廃止や、婦人科健診の無料化などのサービスを充実させ、スマホを通じた手続きを可能にし、使い勝手を改善する予定だったという。
また、アダストリアの試算では、単一健保となれば加入者の大半が若い女性で、扶養家族が少ないため医療費がかからないことから、保険料率が約1%、年間約4万円減少するという。従業員が払う分だと約2万円安くなるわけだ。