ノウハウをすべて公開するスーパー、
病院にも介護施設にも見えない病院
内田:世の中にはマネのできない会社が存在します。関西と首都圏に展開する北野エースというスーパーマーケットがあります(株式会社エース)。先進的な店舗戦略で集客力が高い。ニッチを追求し。他社ではマネできない付加価値を生み出しています。
土屋:食品や専門分野に特化して徹底的に品揃えしています。
内田:商品数が多いだけでなく、ユニークな商品が多いことも特徴で、全国の「ご当地商品」を集めています。お客さんは目的の商品を探しつつ、ユニークな商品を比較しながら、見つける楽しみや選ぶ楽しみを感じます。加えて、個性的な商品の購入を手助けするため商品知識のあるコンシェルジュが店頭にいます。ここは見学大歓迎で「ノウハウはすべて公開します」と言っていました。「なぜ公開しちゃうんですか」と聞くと、「見てもマネできないでしょうから」と言われました。「マネできない」という点はワークマンと同じです。
土屋:ありがとうございます。
内田:マネできないノウハウはあちこちにあります。
たとえば「トヨタ生産方式」。関連書籍(大野耐一『トヨタ生産方式』ダイヤモンド社、1978年刊で100刷突破)やセミナーもたくさんあり、コンサルタントも大勢います。
1980年頃から注目され、90年代に入ると病院、郵便事業、官公庁まで「ジャスト・イン・システム」や「カンバン」を導入しました。
ですが、失敗に終わるケースも多かった。なぜかというと、トヨタのように徹底できる企業、徹底し続ける企業はなかなかない。なんとなくマネできそうだと始めてみても「やっぱりうちにはできない」と挫折してしまいます。
土屋:たしかにそうですね。
内田:青梅慶友病院という高齢者を対象にした有名な病院があります。
ここに私が尊敬する大塚宣夫先生がいます。創設以来、「自分の親を安心して預けられる施設」の実現を目指しています。ここでは病院の顧客は誰かという問いを考え続けています。一般的に病院の優先順位は、1番目が医療、2番目が介護、3番目が生活環境なので、設備、運営も医療を行うことが前提です。
しかし、それでは患者が気持ちよくすごせる環境にはならないと考え、最初に「人生の最期を暮らす場」として生活環境を整え、それに介護を加えて、必要なときに医療を提供するという形にしています。暑すぎず、寒すぎないバリアフリーの空間で、飲み込みが悪くなっても楽しめる食事が出てきます。気兼ねなく介護を求めることができますし、必要に応じて医師や看護師がきてくれます。最晩年をすごす高齢者には看護、介護、医療のすべてが同時に必要になるという考えで、3つが一体的に提供される仕組みを目指しています。青梅慶友病院にも多くの人が見学に訪れていましたが、不思議なことにまったく競合が現れない。