金持ちになる方法は
金を使わないことだが……

土屋:なぜですか。

内田:医療関係者が見ると、「ここは病院ではなくて介護施設だ」と言います。

一方、介護関係者が見ると、「ここは介護施設ではなくて病院だ」と言います。

看護、介護、医療のスーパーハイブリッド型なので既存概念の延長ではマネできない。成功したノウハウは有名になり、その仕組みが事細かに解説されるのでみんなマネしてみたくなる。でも、決してマネできない。

土屋:なぜマネできないのでしょうか。

内田:方法論はシンプルかもしれない。でもそれを割り切って徹底的に実行するのは難しい。

金持ちになる究極の方法はお金を使わないこと。英語を習得するには毎日継続的に勉強すること。ダイエットするには食事と運動をバランスよくすること。たしかにそうなのだけれど誰もできない。だから一部のやり続けた人だけが成功者になる。ワークマンの「しない経営」もこれと同じです。

土屋:無形資産だからマネできない。内田さんが以前の連載でおっしゃった「オペレーションの4つのカギ」価値観を掲げる、シンプルにする、徹底する、学習する(学習し続ける)がうまく機能しているのでしょうか。

内田:無形資産をつくりあげている1つの要素は組織学習でしょう。

先ほど触れた北野エースは、従業員の成長なくして会社の発展はないと考え、従業員を信頼し、全国の各店長に商品の仕入れなどを一任しています。そうすることで自信や責任感、やりがいが生まれます。

青梅慶友病院は、社員給与は業界平均の2割増し、業務内容は他の病院より3割厳しい、差引1割はボランティア精神でまかなう考え方で、職員の質の向上を図っています。

ワークマンの場合はエクセル経営でしょう。ワークマンにとって重要なマニュアル化、標準化のために、社員が現場で実験し、実験の結果をデータとして集積し、活用できるようにしています。個人が仮説、実行、検証のプロセスを全体で共有するという組織学習のお手本です。

土屋:ありがとうございます。10回にわたる連載、本当に勉強になりました。

(完)

内田和成

早稲田大学ビジネススクール教授
東京大学工学部卒、慶應義塾大学経営学修士(MBA)。日本航空を経て、1985年ボストンコンサルティンググループ(BCG)入社。2000年6月から04年12月まで日本代表。09年12月までシニア・アドバイザーを務める。BCG時代はハイテク・情報通信業界、自動車業界幅広い業界で、全社戦略、マーケティング戦略など多岐にわたる分野のコンサルティングを行う。06年4月、早稲田大学院商学研究科教授(現職)。07年4月より早稲田大学ビジネススクール教授。『論点思考』(東洋経済新報社)、『異業種競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『スパークする思考』(角川書店)、『仮説思考』(東洋経済新報社)、『リーダーの戦い方』(日経BP社)など著書多数。
Facebook:https://www.facebook.com/kazuchidaofficial
土屋哲雄(つちや・てつお)
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を本書で初めて公開。本書が初の著書。