コロナ前から週2回のリモート可
迅速に250ドルの手当ても支給
働きがいのある企業であるためには、働きやすい環境であることも欠かせない。鈴木氏は、「従業員のエンゲージメントを高めることが、企業の競争力の源泉になる。そのためにも働きやすい職場にすることが欠かせない」とし、同社はコロナ前から柔軟で選択肢のある職場環境を提供してきた。
16年にはいち早くリモートワークを開始。週2日間を上限にリモートワークを可能にし、フレックスタイム制も導入した。また、15年には南紀白浜でサテライトオフィスを稼働させた。
「実は白浜サテライトオフィスは地域活性化という社会貢献の一面で始めた部分もあったが、通勤時間がなくなったことで、ボランティアをしたり、コミュニティのつながりが増えたといった効果も生まれている。さらに驚いたのは、従業員の生産性がアップしている点。コロナ禍で一斉にリモートワークが開始されたが、白浜での実験も生きており、会社全体の生産性もアップしている」(鈴木氏)
一体なぜ、コロナ禍でも生産性をアップできたのか。もともとリモートワークが可能だったとはいえ、全ての人が自宅に快適なオフィス環境を整えられていたわけではない。また未曾有の事態で、心配事も増えて仕事に集中できなくなると予想できた。そこで同社では、従業員へのアンケートなどを実施した上で、さまざまな人事施策をトップダウンで打ち出すことを決めた。
まず、手当の支給だ。昨年3月には在宅勤務環境を整えてもらおうと、必要な機材の購入のために250ドルの手当を支給。ノイズキャンセリングイヤホンの購入費用として200ドルも別途支給した。
また昨年の3月からは学校が休校になるなどして、子どものいる家庭では急な事態に対応できないケースも想定できた。そこで日本法人独自の取り組みとして、これまでは小学生以下までの子がいる従業員が対象だった「子ども1人あたり3日間の休暇制度」を、中学生以下の子のいる従業員にまで拡充。さらに、新型コロナの影響で通常利用している学校やサービスが利用できない場合に、臨時制度として、月最大5万円を受け取れる育児給付金の支給も決めた(2021年からは育児給付だけでなく、親や祖父母の介護も給付対象に)。
さらに6月には、自宅の光熱費などの補助を目的に「Stay Green at Home Allowance」として月5000円の支給も決めたという。
もう一つ行ったのが、従業員とその家族向けのさまざまな専門家によるウェビナーの開催だ。コロナ禍で不安な気持ちを落ち着かせたり、乗り越えたりするヒントとして、マインドフルネスや子育ての専門家、ユニークなものではDJを呼んで従業員からリクエストのあった曲をかけてもらうイベントも開催したのだという。
今回、4つのポイントに絞って紹介してきたが、「働きがいのある状態をつくるには、ただ文化をつくるだけではなく、制度も必要」と鈴木氏が語るように、ただ立派な企業理念や理想を掲げるだけでは社員はついてこない。企業理念を実現する制度を充実させ、リソースに制限がある中で、いかに従業員の成功を支えられるか。人事部門にこうした考え方が根付いていることが、働きがいのある企業に重要な要素といえそうだ。