組織文化は意思決定のスピードを上げる
中竹:楠木先生は、企業経営において、組織文化の重要度は以前と比べて増していると思いますか。
楠木:以前と変わらず重要だと思います。何よりも、組織文化は判断や意思決定のスピードを上げます。
組織の中にいる人が、自然とその組織における「これがいいことだ」という価値基準を理解しているので、いちいち集まって会議をしたり、上司に認可を取ったりしなくても、すぐに決められるようになります。
ありとあらゆることを組織文化によって決められるのが、いい意味での組織文化が強い組織の優位点です。決めるのが早い、迷わない、自然とベクトルがそろっていく。
中竹:日本企業は、組織文化が強いところが多いのでしょうか。
楠木:「日本企業」といってもさまざまです。その組織がつくってきた組織文化というよりは、もともと日本社会が自然に持っている文化に乗っかってそうなっている、ということかもしれない。
ただ、組織文化は「目的」ではありません。パフォーマンスを上げるための「手段」が組織文化の変革です。
いまの状態ではパフォーマンスが上がらないだろうという状態に多くの企業が陥っています。俗に言う「日本的経営」は、戦後高度成長期限定の旬のもので、まったく普遍性はありません。空間的な普遍性はもちろん、長期的に観れば「日本的」ですらありません。
戦前の日本は、いまのアメリカよりもよりアメリカンな経営をしていました。労働市場の流動性は高く、財閥の資本の論理でコントロールされていました。雑誌「中央公論経営問題」は戦前の中心的なビジネスメディアで、その記事の中で、当時の識者が経営問題を語っています。
そこには、「日本は常にアメリカに学ばなければならない。フォードのように、会社は家族みたいにならなければいけない」と書かれています。当時、アメリカの大規模製造業では、事実上の終身雇用が定着し、みんなが家族のように会社に帰属し、会社の近くに団地の社宅があって、みんなそこで住んで、会社にロイヤルティーを感じていたからです。ちょっと前の「日本的経営」と言われているものと瓜二つです。
当時の日本は、少しでも給料が高いとすぐに職人が会社を移ってしまうために技術が蓄積されず、大規模組織が成立しないという課題に直面していました。しかも、金融資本が自分たちの利益だけを考えて動いていたので、いつまでたってもアメリカのような産業基盤ができないと言っていたわけです。現代の論調とは正反対でしょう。
巨視的に見ると、定着して動かせないように見える組織文化も、たかだか50年や80年のものなのです。しょせんビジネスの世界のことです。話はそれほど深くない。100年持たないものは文化とは言わないでしょう。
この話は、日本という国で見た場合ですが、個別の企業になると、もっと変わります。つまり「変えようがない」と思える組織文化だって、あっさりと変わることができるのです。
中竹:変えようと思えば変えられるもの、ということですね。(次回に続く)
――対談中編で楠木教授は、組織文化について「変えようがない」と思える組織文化だって、あっさりと変わることができると教えてくれました。では組織文化を変化するためには何が必要なのか。対談後編(2021年2月18日公開予定)では、組織文化を変える方法について対話を深めていきます。
本記事をベースに、組織文化について語り合うコミュニティ「ウィニングカルチャーラボ」で、みなさんの属するチームや企業、組織の文化について一緒に学び、語り合いましょう。