“直轄領”の不祥事で菅首相にも責任

 そうした当たり前のプロセスを一切経ることなく、旧郵政省が水面下でNTT再々編を容認したと事実は、政策決定プロセスの観点から由々しき問題だと思います。

 そのためでしょうか、20年9月にドコモ完全子会社化が発表されると、他の通信事業者は11月に総務省に対し、ドコモ完全子会社化に関する意見書を提出し、総務省は12月になって“公正競争の在り方に関する検討会”を設置しています。

 ちなみに、総務省は公正競争を掲げると同時に、政府がNTTの大株主であることも考えれば、NTTが総務省の了承なしにドコモ完全子会社化を決められるはずがありません。

 かつ、それは発表直前に相談して一発でOKをもらえるような内容では到底ありませんので、間違いなく議論にはかなりの時間がかかるはずです。そうした事実からも、私は接待を通じて水面下でNTT再々編を巡る議論がNTTと旧郵政省幹部の間だけで議論されたのではないか、と邪推しているのです。

 そして、さらにすごく勝手な邪推を進めると、もしかしたらそこで谷脇氏は、“携帯料金4割引き下げ”という菅首相の命令を実現するために“公正競争の確保”という旧郵政省の最重要課題を放棄し、後回しにすることを水面下で勝手に(=通常の政策プロセスを経ずに一部の幹部や政治家だけで)決めた可能性もあるのではないかと思っています。

 もしそれが事実だとしたら、公僕である公務員としてこれほどの国民に対する裏切りはないのではないでしょうか。単に公務員倫理規程で禁止されている接待を平気で受けていたという事実より深刻でしょう。あくまでも私の邪推ではありますが。

 政策決定プロセスの歪みが接待によって生じてしまったとすれば、それは旧郵政省が“規制”と“振興”の両方の権限を有しているからです。つまり、公正競争の確保は“規制”が果たすべき役割ですが、谷脇氏はNTT再々編、携帯料金大幅引き下げ、携帯市場の活性化という“振興”に偏った判断をしてしまったといえます。

 このように考えれば、情報通信行政の政策決定プロセスに歪みが生じるのを避けるためにも、“日本版FCC”を創設して通信・放送と電波に関する“規制”の権限を移し、“規制”と“振興”の間で相互監視が利く体制を作るのは、管政権にとって取り組まなくてはならない課題のはずです。

 というのも、菅首相は総務大臣を経験しており、かつ官房長官時代から携帯料金4割引き下げをずっと主張し続けてきたことから明らかなように、総務省はいわば菅首相の“直轄領”です。

 菅首相自身がNTTの接待や政策決定プロセスの歪みに直接関わっていたことは、私はないと思います。しかし直轄領でこのような問題が起き、しかも、政策決定プロセスの歪みに、携帯料金の大幅引き下げにこだわり過ぎたことが間接的に影響したかもしれないことを考えると、残念ながら菅首相の責任がまったくないとはいえないと思います。

 そのうえ、菅首相が“日本版FCC“の創設に真剣に取り組まなかったとしたら、既得権益の打破というスローガンは絵空事だったのか、自分の直轄領は守るのか、責任はまったくないのかと批判されても仕方がないと思います。