何歳までこの会社で働くのか? 退職金はどうもらうのか? 定年後も会社員として働くか、独立して働くか? 年金を何歳から受け取るか? 住まいはどうするのか? 定年が見えてくるに従い、自分で決断しないといけないことが増えてきます。
会社も役所も通り一遍のことは教えてくれても、“あなた自身”がどう決断すれば一番トクになるのかまでは、教えてくれません。税や社会保険制度の仕組みは、知らない人が損をするようにできています。
定年前後に気を付けるべき「落とし穴」や、知っているとトクする「裏ワザ」を紹介したシニアマネーコンサルタント・税理士の板倉京先生の話題の著書「知らないと大損する!定年前後のお金の正解」から、一部を抜粋して紹介します。本書の裏ワザを実行するのとしないのとでは、総額1000万円以上も「手取り」が変わってくることも!
給与の一部を退職金に回してもらう方法
前回の記事でお話したように、60歳以降は、働けば働くほど手取りが多くなるわけではありません。
手取りをなるべく減らさないために、働き方や給与を調整するのもいいのですが、そんなこと気にせずに、良い条件を提示されたなら、たくさんの給与をもらって働きたい、と思う方もいらっしゃると思います。そんな方におすすめの方法があります。
それは、給与の一部を退職金に回してもらうという方法です。
たとえば、再就職後の給与が月25万円、「特別支給の老齢厚生年金」が10万円の場合で考えてみましょう。
25万円を給与でもらうと年金が3万5000円カットされてしまいますが、月給を月18万円にして、残りの7万円を退職金に回してもらえれば、年金はカットされません。しかも、退職金には社会保険料がかかりませんし、税金も安いというメリットがあります。
このケースなら、社会保険料と税金の差額だけで、年間20万円以上おトクになります。しかも、「特別支給の老齢厚生年金」を受給する年には、年間63万円ほど手取りを増やせます。
退職金をもらう時には税金がかかりますが本書でも説明した通り、退職金は大変優遇されていますし、社会保険料はかかりません。
仮に5年間勤務し、退職金に回した分をもらうとすると、7万円×12ヵ月×5年間=420万円になります。この420万円の退職金にかかる税金は、所得税と住民税合計で約17万円です。5年間で社会保険料と税金の差額で108万円ほどおトクになっているので、退職金で17万円税金を払ってもしっかり効果はあります!
ちなみに、退職後の「失業手当」や「高年齢求職者給付金」は、退職前6ヵ月の給与をもとに計算されます。給与が25万円の場合と18万円の場合では、「失業手当」も「高年齢求職者給付金」も支給額の差は数万円程度ですから、失業手当などを含めて考えても、給与の一部を退職金に回したほうがおトクです。
賃金ダウンしたら、もらえる給付金もある
仮に「特別支給の老齢厚生年金」はもらえないので関係がない、という場合でも給与の一部を退職金に回すメリットは他にもあります。
それが、「高年齢雇用継続基本給付金」です。60歳以降の給与が60歳時点の給与と比べ、75%未満に低下している場合に受けられる給付金で、ダウン率が高いほど給付率が上がり最大で新給与の15%を受給できます。給与の一部を退職金に回す方法を利用できれば、この給付金をより多く受給できる可能性があるというわけです。
このように、メリットの多い方法ですが、これを実現するためには、再就職時の給与の取り決め時にしっかりと交渉する必要があります。言い出しにくいと思われるかもしれませんが、給与を退職金に回すと、会社側にとっても負担する社会保険料が減るというメリットがありますから、悪い話ではありません。あとは、後回しにした退職金をちゃんと受け取れるように、雇用契約書などできちんと取り決めをしておくことをおすすめします。
この事例に限らず、60歳以降の手取りは、様々な制度の利用の仕方や、節税対策などによって変わってきます。60歳以降の手取りを決定するのは「お金の知識」があるかないかです。本書では、他にも、知らないと損をする様々な制度や裏ワザを、分かりやすく説明しています。ぜひご参考にしてください。