「目標は日本一」が素直に言えなかった

――そのためには、コーチもスタッフも互いに学び合わなくてはなりませんね。

萩原:そもそも人間は、自分が知らないことを認識することが難しい。特にプロ野球は国民的スポーツで、日本最大の興行をかなりの高頻度で行う団体でもあったからか、ほかの世界から学ぶ意識があまりありませんでした。「我々がもっとも高いレベルにいる」という空気があるんです。

 しかし、スポーツ界に限らず、成長し続けている組織は、間違いなくほかの世界から学んでいるし、変化する環境に適応しようと、自ら変わり続けているはずです。当時のベイスターズは、こうした変化への感性が低かったように思います。だからこそ、あえて野球とは異なる世界から新しい学びをもたらしてくれる人に、組織改革をお願いしたいと考えました。

――具体的に、どのような内容のプログラムを受けて、どのように変わっていったのでしょうか。

萩原:最初に取り組んだのは「空気を変える」ことでした。かちかちの氷のように固まっている非常に堅い考えのチームの状態を、水のように柔らかくするために、いろいろな取り組みを行いました。

 シーズンオフの12月と1月を使って4日間、1軍とファームのコーチとスタッフを全員集めて、朝から晩まで中竹さんのトレーニングを受けてもらったこともあります。80人ぐらいを一堂に集めるので、一筋縄ではいきません。

 そこで、「そもそも私たちは何を目指しているのか」「どうなっていけばいいのか」と問いかけ、「私たちの目標は日本一になることだよね」という方向へ導こうとしたんです。でも、最初はみんなそれが恥ずかしくて言えませんでした。

 当時は、直近の6シーズン中、5回も最下位になっていたので、「日本一になろう」なんていう言葉は恥ずかしくて口にできないんです。「日本一にならなければいけないのはわかっているけれど、現実的には無理だよね」という空気が流れていました。

 結局、みんながためらうことなく「日本一になるために」と言えるようになるまでには、中竹さんがトレーニングを始めてから、3年くらいかかりました。

 現段階で日本一を目指していないコーチやスタッフは一人もいないはずですが、中竹さんのトレーニングを始めた2014年には誰も堂々とこの言葉を言えなかった。

 そこから、少しずつチームの空気が変わっていったんです。

 もちろん、一気に空気を変えようとしても限界があります。だから、その時その時で、可能な範囲で最大値を目指していったのです。人間はそんなに簡単に変われませんから。

 空気を変えるための「勝利の方程式」があるわけでもなく、チームも生き物で、人も入れ替わっていきますから、その時々、組織のコンディションを見ながら目的地にたどり着くために、どうしたらいいのかを考えてきました。

(インタビュー中編は2021年3月18日公開予定)