「予期せぬ成功が認めがたいのは、人間誰しも、自然の法則のように受け入れているものに反するものは、すべて異常、不健全、不健康として拒否するからである」(ドラッカー名著集(5)『イノベーションと企業家精神』)
成功したイノベーションをしらみつぶしに調べ、それらの契機となったものを分類したところ、いちばん多かったのは発明・発見ではなかったという。それは予期せぬ成功だった。
変なところから客が来た。なぜかを調べたら、マーケットが大きく変わりつつあることがわかった。そこからイノベーションが生まれた。うまくいくのは、この種の発見から生まれたイノベーションである。
ところが皮肉なことに、予期せぬ成功に最も気づきにくいのが当事者である。当事者であるからこそ気づかない。注意もしない。そこでなにもせずに放っておく。そこへ誰かがやって来て、イノベーションを行ない、マーケットと利益をさらっていく。
したがってドラッカーは、予期せぬ成功が目にとまる仕組みを作れという。報告システムにしても、会議にしても、失敗ではなく成功に焦点を合わせよという。こうして、目にとまった予期せぬ成功のすべてについて、具体的に何を行なわなければならないかを考える。
クレームは宝の山である。それは、問題の所在を教えてくれる。しかし、もっと重要なのは、予期せぬ成功である。それは、機会の所在を教えてくれる。
そもそも成功がイノベーションの機会である。さらに追求すべきものである。いわんや予期せぬ成功は、視野に入っていなかった機会である。しかもそれは、すでに起こったことである。
自社の予期せぬ成功に限ることはない。取引先の予期せぬ成功、競争相手の予期せぬ成功、埋め草記事で知った予期せぬ成功、すべてが利用すべきものである。自らが使わなければ、必ずや人が使うであろう天からの贈り物である。
「予期せぬ成功は機会である。しかしそれは、要求でもある。正面から真剣に取り上げられることを要求する。間に合わせではなく優秀な人材が取り組むことを要求する。マネジメントに対し、機会の大きさに見合う取り組みと支援を要求する」(『イノベーションと企業家精神』)