大事なのは部下を「迷わせない」こと
――たしかに、このコミュニケーションだと、純粋に「事実を突き詰めている」だけで、精神的に追い込んでいるのとは違うイメージがありますね。
安藤:そうなんですよ。最近のマネジメント手法では、目標は全然達成できていないのに、プロセスを褒めてみたり、「おまえが頑張っているのは知っているよ」とか「もっと自分らしく頑張ってみようよ」などと励ます人も多くいます。
でも、じつはそう言ったほうが逆にメンタルを崩してしまうことが多いんですよ。
――それは、どうしてですか?
安藤:部下にしてみれば、どうしていいか、わからなくなるからです。
私は精神科医ではないので、専門的なことは言えませんが、実際の現場を見てきて、メンタルを崩すのは「圧がかかっている」より「迷っている」ことで起こるケースが多いです。
私たちの場合「事実を突き詰める」という意味での圧をかけているかもしれませんが、精神的に「気合い」や「やる気」という言葉を使って追い詰めるようなやり方はしませんし、「この先、どうしていいかわからない」という「迷い」をなくす方向で関わっていきます。
それを実行してメンタル不調になることはまずないですね。
むしろ「自分らしく頑張ろうよ」とか「もっと本気出してみようよ」みたいな、優しいけれどあいまいなことを言われると、「何をしていいのかわからない」という状態で苦しみ出す部下はたくさんいます。
――「圧」ではなく「迷い」によってメンタル不調になるというのは鋭い指摘ですね。
安藤:実際、たくさんの企業を見ていると、そういう例がたくさんありますよ。
だから、リーダーがやるべきことは「迷わさないこと」です。
この本では、リーダーが部下のモチベーションを上げたり、やる気を出させるために褒めるとか、そういうことは一切必要ないと語っています。
――そのあたりも、現代的なマネジメントとは決定的に違う点ですよね。
安藤:部下のモチベーションアップに上司が関わる必要はまったくありません。
会社とか、上司・部下というのは『機能』であって、友だち関係ではありません。それぞれが責任を果たし、機能することで利益を得て、その利益から給料が払われる。そんな組織の中で自分が機能を果たするのは当たり前です。
学校の生徒やサービスを受ける人のように、「上司にモチベーションを上げてもらう」という発想自体に無理があります。
ただし「何をしていいかわからない」という迷いがあったら、自分の責任を果たし、組織の一員として機能することができません。
だからこそ、上司やマネジャーは迷わせないようにする。とてもシンプルな考え方です。
さきほども言いましたが、目標を設定して、そこに向かう方法が見いだせない部下がいれば、さらに手前の目標を設定する。
そうやって、ゴールを示して迷わせないことが肝心です。
部下に対して、優しい言葉をかけたり、褒めたりしても、結局部下が迷っているようでは、機能もしないし、メンタル的にも苦しめます。