今、多くの組織では「個人のアイデアを尊重しよう」「個を生かすことがイノベーションに繋がる」と盛んに強調されている。
しかし、それは本当なのか?
「個を生かす」という名の下に、組織が弱体化しているケースもじつは多くある。
「個のアイデアを生かす」という組織ほどハマっている落とし穴とは?
個人のアイデアは、どのように組織に還元すればいいのか。
そんなポイントについて、今「従来型マネジメントとは一線を画す」と話題の書著『リーダーの仮面』の著者であり、株式会社識学の社長でもある安藤広大さんに話を聞いた。(取材・構成/イイダテツヤ、撮影/疋田千里)
「考えざるをえない環境」を作りなさい
――『リーダーの仮面』は『識学』という考え方が基本になっていて、そのなかでは「ルールを決めること」「それをきっちり守らせること」の大切さが強調されています。
この言葉だけを聞くと「アイデアフルに、イノベーティブに働くことができない」と感じる人もいると思うのですが、安藤さんはそのあたりをどう捉えていますか?
安藤広大(以下、安藤):そういう意見、誤解はよく受けるのですが、私たちもイノベーティブを否定しているわけではなく「自分がイノベーティブである領域」を限定しているだけなんです。
要は「それぞれの責務において、イノベーティブでありなさい」と言っているだけです。
私たちが「ルールを決める」「明確にする」を大事にしているのは、そういう理由です。
ルールとは、イノベーティブを制限するのではなく、どこの領域でイノベーティブであればいいのかを、はっきりさせてくれるものです。
――よく「こんないいアイデアがあるのに、会社が採用してくれない」と嘆く人がいます。それについて、どう思いますか?
安藤:それは私たちの言葉で言えば「責任以上の権限を与えすぎている状態」です。
責任の範囲内であれば、そのアイデアを採用すればいい。シンプルな話です。
ただし、その範囲外において「いいアイデアがあるのに、採用してくれない」と文句を言うのは権限を超えています。
いくらいいアイデアであっても、それに関して責任を取る立場でなければ、意味はありません。「アイデアは出すけど、責任は取らない」という状態は、組織において必ずワークしなくなります。
「責任なき権限行使」は、もっとも気持ちがいい状態なので、アイデアを出す人は何でもできる気がしてくるんです。「オレにはこんないいアイデアがある」「こうしたほうがいいのに、会社はわかってない」と言うのは、誰でもできることです。
――若くて優秀な人ほど、経験することですね。
安藤:私も若い頃は、同じような経験がありました。しかし、いざやってみるとほとんどの場合うまくいきません。
前職はNTTドコモにいたんですけど、それこそ当時は「オレのほうが、ドコモの経営陣より未来を描ける」「自分にはもっといいアイデアがある」って思ってましたよ。
でも、そんなのは、今考えるとチープな話でした。
「やり切らなきゃいけない!」という責任ある立場でなければ、改革なんて絶対に進みません。
組織として「イノベーティブな状態を作る」「個のアイデアを大事にする」のはいいんですけど、そのときは必ず範囲が明確にされ、責任がセットでなければいけないと思っています。
それを誤解や錯覚なく規定するのが、ルールなのです。
――それは非常に明解な考え方ですね。責任と自由度はセットにする。その上で、部下やチームのメンバーに仕事を与えるときの具体的なポイント、注意点はありますか?
安藤:それは「求める結果を設定すること」です。
識学では「シンプルに結果で評価する」のが基本です。「一生懸命やった」や「プロセスが素晴らしかった」は評価につながりません。
目標や設定が適切な場合、「アイデアフルにやらないと、目標がクリアできない」という状態になるんですよね。
そういう状況であれば、当然、人はいろいろ工夫するようになります。そういう目標設定、結果設定こそが大事です。
「アイデアフルに働け」と精神論を言うのではなく、「アイデアを出さざるを得ない環境を作る」というのが正しい組織運営です。
自分が出さなきゃいけない結果を知って、そのときに初めて、人は必死に考えはじめます。
責任や目標設定がない状態で、ただ「自由に考えてください」というのは絶対ダメです。
誰か1人の天才によるアイデアを待つのではなく、ちゃんと全員が組織としてワークさせるほうが大事です。