「シンプルに結果で評価する」「ルールを作り、守らせる」「部下のモチベーション管理はリーダーの仕事ではない」など、現代のマネジメントとは一線を画すマネジメント法が話題となり、大ヒットを記録している『リーダーの仮面』。
その元となっているのは『識学(しきがく)』という意識構造学の理論。なぜ、今『識学』をベースとしたマネジメントが求められるのか。現代のマネジメントとは“真逆”とすら感じられるこの手法が、なぜこれほどまでに支持されるのか。
『リーダーの仮面』の著者であり、株式会社識学の社長でもある安藤広大さんに「強い組織」を作るための本質について聞いた。(取材・構成/イイダテツヤ、撮影/疋田千里)
会社組織は「誤解」や「錯覚」の宝庫
――『リーダーの仮面』は『識学』という考え方が基本になっているのですが、そもそも『識学』とはどういうものでしょうか?
安藤広大(以下、安藤):識学自体を簡単に説明すると、人はどういうしくみで誤解や錯覚を起こすのか、それを分解、解明しているロジックです。
そのロジックを会社組織に落とし込むと、マネジメントをするときに問題となる誤解や錯覚がわかります。そして、どうすれば誤解や錯覚をなくし、全体のパフォーマンスを上げていけるのかを教えています。
――具体的に言うと、組織運営においてどのような誤解や錯覚が起こっているのでしょうか。
安藤:たとえば、会社内で「お客様のため」ってよく言うじゃないですか。
でも、人や立場によって「お客様のため」という定義は違っていて、それぞれが、自分の思う「お客様のため」をやっています。
部下にしてみれば「できるだけ安く、商品やサービスを提供すること」がお客様のためだと思っていますし、上司は「きちんと会社の利益を確保して、会社として継続的に、いいサービスを提供できること」こそがお客様のためだと思っている。
そういうところが統一されていないと、当然、誤解や錯覚が起こります。
この状況では、部下は「上司はわかってくれない」と思い、上司は「部下はどうして、こんな行動を取るんだ!」と思う。
あくまでこれは一例ですが、そういう誤解や錯覚を取り除いていく。それが識学の基本的な考え方です。
――たしかに『リーダーの仮面』のなかでも、ルールをきちんと定めて、それを守らせるマネジメントの重要性が語られていて、誤解が起こらない、明確なやりとりが強調されています。
その一方で、最近のマネジメントで大事だと言われている「部下のモチベーションを高めよう」とか「エンゲージメントを高めよう」といった部分は必要ないと語るなど、現代の風潮とは、大きく異なる部分も感じるのですが、そのあたりについて安藤さんはどう感じていますか?
安藤:たしかに、社会的な風潮とは違う部分は多いと思います。
そもそも組織は機能だと私は思っていて、上司も、当然機能ということになります。
こんなふうに言うと、冷たいとか、厳しいとか、批判的に言われることももちろんあります。
ただ、会社は「人間の集まり」ですが、集まっている理由は「会社としての目的、目標を達成するため」です。純粋な友だちグループや仲良し集団のような繋がりではありません。
ところが、いつの頃からか、本来の目的は「目標達成」なのに、「人間同士の繋がり」を大切にし始めるようになったんです。その風潮が現在も続いている状況です。
優先順位が変わってしまったというか、順序が逆になってしまって、どんどん強い組織がなくなったと感じています。
――「強い組織」とは、どういう組織なのでしょうか?
安藤:組織が強い状態とは、目標に対して最速で近づいている状態です。社長やリーダーが示した目標を、メンバー全員が達成に向けて動いている状態ですね。
ところが、それとは違った「仲のいい状態」「やる気に満ちあふれている状態」を目指すようになってしまいました。
最近、流行りの組織運営論は「いかに心地よく人々が働けるか」という方向に偏ってますよね。みんなが心地よく働ける組織を作れば、結果的に生産性が高く、会社が目標に近づいていけるという発想です。
でも、僕らがおこなっているのは、会社に属する人、一人ひとりが機能を果たすことで、会社全体が機能し、目標達成に近づいていく。そうやって会社が世の中における評価を獲得できれば、そこにいる社員たちも幸せになれる、という発想です。
一言で言うと、最近流行りの組織運営論とは順番が逆なんです。