TSMCは生産技術の確立に集中
EUV露光装置も多数調達

 世界最大のファウンドリーであるTSMCは、米中をはじめ世界各国にとって必要不可欠の半導体供給者の地位をより強固なものにしつつある。同社の強みは、他社が設計・開発を行った半導体の生産に特化していることだ。それによって、アップルやNVIDIAなどの米国企業は設備投資を負担することなく、半導体の機能の向上に注力できる。TSMCは顧客の要求を満たす生産技術の確立に集中できる。

 逆に言えば、TSMCが競合他社を上回る設備投資を実行し、成長を実現したのは、取り組むべき内容が明確だからだ。その象徴として、TSMCは半導体の回路線幅を小さくする「微細化」への取り組みを強化している。現時点で最先端の5ナノメートルの回路線幅の半導体に関して、TSMCは安定生産を実現した唯一の企業だ。

 その背景には、TSMCが5ナノメートルの半導体生産に不可欠なEUV(極端紫外線)露光装置を、蘭ASMLから数多く調達できたことがある。現在EUV露光装置を生産できるのはASMLのみだ。

 それに加えて、わが国企業が強みを持つ高純度のフォトレジストやシリコンウエハーなどの調達に関しても、TSMCは本邦メーカーとの関係を強化してきた。強固なサプライチェーン・マネジメントを基礎にTSMCは微細化への取り組みを進め、より多くの生産ニーズを取り込んでいる。同社が次世代の2ナノメートルの半導体生産ラインの確立を目指しているのは、アップルやNVIDIAがその生産力を頼っているからだ。

 見方を変えれば、世界各国の企業にとって、どれだけのTSMCの生産ラインを確保できるかが、競争力を左右する。米アリゾナ州においてTSMCが追加の工場建設を計画しているのは、米国にとって同社の生産技術が“覇権の維持”に不可欠だからだ。