マズロー「欲求段階説」の「自己実現」から満たそうとする人たち
アメリカの心理学者であるアブラハム・マズローは、「欲求段階説」の中で、人間の欲求を5段階のピラミッドに分類し、人は下の階層の欲求が満たされるとその上の欲求の充足を目指すと提唱した。
その欲求とは、下から順に、生理的欲求、安全欲求、社会的(親和)欲求、承認欲求、自己実現欲求だ。
下位の生理的欲求や安全欲求とは、人間が生存するために必要な衣食住に対する欲求である。
必要最低限の食事が与えられ、雨風を防げる住居で誰にも脅かされることなく安心して生活できれば、これらの欲求は満たされる。
もしも生理的欲求が満たされなければ、病気になるだけでなく、生命すら維持できないだろう。
また、暴力などで生存を脅かされたり、不安定な収入でその日暮らしをしていて安全の欲求が満たされなければ、いかに危険を回避するか、どうやって安定した暮らしを手に入れるか、ということに必死になる。
要するに、生理的欲求や安全欲求が満たされて初めて、上位の社会的(親和)欲求、承認欲求、自己実現の欲求を満たす余裕ができるのだ。
自分の生命すら危ういときに「自分はこうありたい」という意志を持つことは、普通の人には難しいだろう。
ピラミッドは、下から積み上げていかなければ完成しないからだ。
ところが、ワークバランスという言葉がもてはやされるようになったことで、多くの人が下位の欲求を完全に満たすことのないまま、上位の欲求を満たそうとしている気がする。
ワークライフバランスを整えたいという、いちばん上位の自己実現の欲求から満たそうとしているように感じるのだ。
多くのサラリーマンは、毎月会社から給料をもらっていることで、「自分は生理的欲求も安全の欲求も満たされている」と勘違いしているのではないか。
しかし会社からすると、目標予算を達成していないかぎり、安全の欲求を満たしていることにはならない。
しかも時代は変わり、年功序列制や終身雇用の保障もなくなった。
いま、受け取っている給料が3年後も5年後ももらえるかどうかはわからない。
客観的に考えれば、自分のやるべきことをやって会社の経営を安定させないかぎり、社員一人ひとりの安全の欲求も満たされないのだ。
そんな状態でワークライフバランスを求め、「やりたい仕事をやらせてほしい」「余暇活動を楽しむ時間が十分ほしい」と要求するのは、順序が違う。
まずは、目標を「あたりまえ」のように達成するのだ。
なにもかも、そこから始まると言っていい。