自動車業界が
家電の「二の舞い」になる懸念

 その状況が続いた場合、今すぐではないにせよ、自動車業界が、1990年代以降にわが国の家電メーカーが直面したような状況を迎える可能性は軽視できない。

 1990年代以降の世界経済では台湾、韓国、中国などアジア地域の新興国の工業化が進んだ。その結果、世界経済におけるモノの生産システムが急速に変化し始めた。それまで、テレビをはじめとする家電分野では、垂直統合のビジネスモデルを基底に、すり合わせ技術に強みを発揮したわが国企業が世界のシェアを獲得した。

 しかし、新興国企業の生産技術が向上したことによって、家電の生産は世界各国から優秀なパーツを集め、それを労働コストの低い新興国で組み立てて完成品を生産する「ユニット組み立て型」へ移行した。その結果、新興国企業の価格競争力が高まり、わが国企業からシェアを奪った。

 現在、世界の薄型テレビ市場におけるトップ5社を見ると、サムスン電子を筆頭に4位までを韓国、中国企業が占める。わが国からはソニーが5位に踏みとどまっている。家電メーカーではない、生活用品の企画製造・販売大手のアイリスオーヤマがテレビ市場に参入できたのも、こうした国際分業の進展があったからだ。

 新興国企業の成長を追い風に、米アップルはiPhoneの設計と開発に取り組み、その生産(組み立て)を台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に委託して高い成長を遂げた。デジタル家電分野での設計・開発と生産の分離という環境変化への対応が遅れたフィンランドのノキアは、携帯電話メーカーから業態を変え、5G通信基地など通信機器メーカーとして事業体制を立て直した。半導体分野でも台湾積体電路製造(TSMC)がいち早くファウンドリー(受託製造)のビジネスモデルを確立し、米国のファブレス企業の生産ニーズを取り込んで成長を遂げた。その結果、世界の半導体産業の盟主の座は米インテルからTSMCにシフトしている。