水素を燃料とする燃料電池自動車「ミライ」を販売し、これまで水素社会の実現に向けて政財界を巻き込んで先頭に立ってきたのは、トヨタ自動車だった。しかし、今回の水素バブルでは主役になれそうにないというのだ。特集『1100兆円の水素バブル』(全8回)の#2では、トヨタが水素バブルで主役になれない理由を解き明かす。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)
政財界を巻き込んで水素社会の
主役を張ってきたトヨタ
トヨタ自動車が燃料電池自動車(FCV)「ミライ」の2代目の発売を2日後に控えた2020年12月7日、「水素バリューチェーン推進協議会」が設立された。東京・丸の内の三井住友銀行本店で行われた記念式典で、壇上の中心にいたのは、内山田竹志・トヨタ自動車代表取締役会長だった。
日本で水素社会を構築すべく先頭に立ってきたのは、日本一の時価総額を誇るトヨタだ。究極のエコカーとして14年に世界初の量産型FCVを発表し、「水素ブーム」を巻き起こした。
実は水素ブームそのものは、トヨタが用意周到に行った永田町へのロビー活動が奏功してつくり出されたものといえる。
いわゆる水素議員連盟の会長を務める小池百合子衆議院議員(現・東京都知事)に働き掛けて、水素をアピールする舞台として東京五輪・パラリンピックを活用すべきだと都側に持ち掛けた。東京都は聖火台や聖火トーチリレーなどで水素を活用する方針を打ち出し、東京五輪が“水素五輪”へと変貌した。
トヨタは政府のエネルギー政策も揺さぶり、14年4月に閣議決定した第4次エネルギー基本計画に初めて「水素」の文言が盛り込まれた。そして、17年には世界に先駆けて水素基本戦略が策定され、20年には国内でFCVを4万台(17年2000台)にまで普及させるというロードマップが決まった。
これまで水素社会の実現へ主役を張ってきたトヨタ。菅義偉首相が20年10月の臨時国会で、50年までに二酸化炭素(CO2)の排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を打ち出し、その切り札として水素が再び注目を集めている。猫もしゃくしも水素にたかるありさまで、まさに水素バブルの様相を呈している。
トヨタは、14年の水素ブームのときのように今回も水素バブルの中心にいるはず。ところが、今回は様子が違うというのだ。