日本電産がモータシステムの生産を強化
自動車関連企業が迫られる業態転換

 世界の自動車業界でも同じような変化が加速度的に進んでいる。5年後も10年後も、今日の世界の大手完成車メーカーが、その地位にあるとは言い難い。わが国自動車メーカーが環境変化に対応するためには、大胆な発想をもって業態を変えなければならない。例えば大手自動車メーカーが燃料電池の外販に取り組んでいることは注目に値する。

 米EV企業大手テスラの台頭に加え、アップル、中国のバイドゥなどがEVの設計・開発に取り組んでいる。各社はソフトウエアのアップデートによるEVの性能向上を重視している。つまり、スマートフォンのように、利用開始後もEVの性能が向上する。ソフトウエア開発に関しては既存の自動車メーカーよりもIT先端企業が強い。

 その生産ニーズを取り込むために、鴻海精密工業やカナダのマグナ・インターナショナルなどが自動車の受託製造体制の確立に取り組んでいる。また、わが国では、日本電産がモータシステムなどの生産を強化している。バッテリー分野では、中国の寧徳時代新能源科技(CATL)が価格競争力を発揮し、韓国のLG化学などもシェア拡大を目指している。家電産業などが経験したように、分業が進むことによってEV開発のスピードは増す。そうした変化に、垂直統合型のビジネスモデルで対応することは難しい。

 今後、わが国の自動車メーカーを取り巻く事業環境は厳しさを増し、各社がより強い逆風に直面する可能性は高い。自動車産業が雇用をはじめ、わが国経済を支えてきたことを考えると、今後の日本経済の展開には慎重にならざるを得ない。

 逆に言えば、わが国経済が相応の安定と成長を目指すためには、企業が過去の発想にとらわれるのではなく、新しい発想をもって業態を転換させていかなければならない。わが国の自動車メーカーが米中などで需要を獲得している足元の状況は、自動車各社だけでなく、わが国経済全体が新しい発想の実現に取り組み、成長を目指す「最後のチャンス」と言っても過言ではない。