最初の起業よりも
2回目、3回目のほうがうまくいく理由
堀田 ベンチャーでも、ファウンダー同士ならパーパスやビジョンのすり合わせは何の問題もなくできるんですが、成長して人員が増え、ガバナンス体制が整うほど、未来を意識するのが難しくなります。あるべき社員像、あるべき組織像を定義するのは、いまの理想を語ればいいだけなので比較的簡単なんですけど、20年後の未来を見据えてベンチャーをやっている人は意外と少ないのではないかと感じています。
入山 ベンチャーは振れ幅が大きいので、目の前のことをこなすのが大変なのはわかります。でも、心の中にパーパスやパッションがないと、むしろ持続しないじゃないですか、どうせ大変なんだから。僕のまわりでは、結果が伴っている起業家には、やっぱりパーパスがありますよね。
堀田 たしかにおっしゃるとおりです私たちの世界観でいうと、シリアルアントレプレナーとして、1回目、2回目で成功している起業家のほうがパーパスを持ちやすい気がしています。
入山 なるほど、それはおもしろい。
堀田 経験があれば、たとえば上場やバイアウトの、さらにその先を見据えてやっていかなければいけないというところからスタートできます。でも、まだ1回目のラウンドで、右も左もわからないという起業家の方は、どんどん目線が下がってしまう傾向があるようです。
入山 連続起業家がもっと出てくるといいですね。メルカリの山田進太郎さんなんて、まさにそうじゃないですか。
平野 最初にパーパスが設定されていなくてもいいと思うんです。ちょっとずつ変えていっているうちに、パーパスが言語化されてくる。
シナモンAI代表
シリアル・アントレプレナー
東京大学大学院修了。レコメンデーションエンジン、複雑ネットワーク、クラスタリング等の研究に従事。2005年、2006年にはIPA未踏ソフトウェア創造事業に2度採択された。在学中にネイキッドテクノロジーを創業。iOS/Android/ガラケーでアプリを開発できるミドルウェアを開発・運営。2011年に同社をミクシィに売却。ST.GALLEN SYMPOSIUM LEADERS OF TOMORROW、FORBES JAPAN「起業家ランキング2020」BEST10、ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019 イノベーティブ起業家賞、VEUVE CLICQUOT BUSINESS WOMAN AWARD 2019 NEW GENERATION AWARDなど、国内外での受賞多数。また、AWS SUMMIT 2019 基調講演、ミルケン・インスティテュートジャパン・シンポジウム、第45回日本・ASEAN経営者会議、ブルームバーグTHE YEAR AHEAD サミット2019などへ登壇。2020年より内閣官房IT戦略室本部員および内閣府税制調査会特別委員に就任。2021年より内閣府経済財政諮問会議専門委員に就任。プライベートでは2児の母。
入山 (平野氏を見ながら)よく考えたら、ここにシリアルアントレプレナーがいるじゃないですか(笑)。典型的な成功例。平野さんの場合はどうなんですか?
平野 シナモンは2社目なんですけど、当初やっていたアプリ系のビジネスは失敗してしまったんです。それで創業3、4年たってからAI事業をやっているんですけれども、そのタイミングで子どもをもって、そこで自分のパーパスが設定されました。子どもたちの世代が働き始めるころにはいまの働き方が変わっていかないといけないし、それをやるのが自分の世代の役割なんだと。
堀田 私も1社目から一緒にやっているんですけれども、1社目と2社目の違いは、対外的に何を言ってよくて、何を言ったら嫌がられるのかという部分の解像度が上がったということです。
最初の会社は、2人とも学生起業だったので、こういう言い方だと信じてもらえないということがわからず、当初の思いがどんどん小さく、こじんまりとしたものにされていくという経験をしました。それでも、事業としてはそれなりに成功したわけですが、やっている当人としては、全然おもしろくない。そこで、世界を大きく変えられるのはなんだろうと思って始めたのがいまの会社です。
そういう原体験があるので、最初に大きなパーパスやビジョンがあっても、誰からも潰されないくらいしっかりしたのがなければ、外圧でどんどん小さくされてしまうという意識があります。
入山 なるほど。その意味では、いい投資家やパートナーを選ぶのは大事ですね。シナモンさんは、それこそソニーコンピュータサイエンス研究所の北野宏明先生が一緒だから心強いですよね。こじんまりせず、大きな世界を狙おうという人がいると。
平野 おっしゃるとおりです。最初のエンジェル投資家として、経営者としても成功されている方が入ってくれると、理解があるというのがすごく大きいと思います。
(第3回へ続く)