ある日突然、異動や転職などでリーダーを任された。
配属先は慣れ親しんだ場所ではなく、
すでに人間関係や風土、文化ができ上がっている
“アウェー”のコミュニティ(会社組織)。
右も左も分からない中、
「外から来た“よそ者”」の立場で、
いきなりリーダーを任されるケースも
少なくありません。
また、多数のエンジニアを率いる非エンジニアの
リーダーなど、自分の専門外の領域でチームを
まとめなければならない
「門外漢のリーダー」も増えています。
今の時代、「よそ者リーダー」がリーダーの
大半であるといっても過言ではありません。
そこで、新規事業立上げ、企業再生、事業承継の
中継ぎetc.10社の経営に関わった
『「よそ者リーダー」の教科書』の著者・吉野哲氏が
「よそ者」こそ身につけたい
マネジメントや組織運営のコツについて伝授します。
今回は、新任社長がやりがちな
「してはいけないこと」についてお伝えします。
(構成/柳沢敬法、ダイヤモンド社・和田史子)

「よそ者リーダー」の教科書、著者の吉野哲氏による「新任社長がしてはいけないこと」Photo: Adobe Stock

社長の「分」をわきまえて、
現場のことは現場に任せる

「経営トップが現場に口を出し始めると、たいていロクなことにならない」のは、会社経営における“あるある”のひとつ。

特に自分の専門分野や得意分野のことなら、ついモノを言いたくなるという気持ちもわかりますが、やはり、それも程度問題です。

「ここはこうじゃない?」「こっちのほうがいいんじゃない?」といった軽いアドバイスレベルなら許容範囲内。これくらいなら「さすが社長、詳しいですね」などと、従業員とのコミュニケーションを深める糸口にもなるでしょう。

しかし、これが度を越してくると厄介なことになります。

「社長が現場に来るたびに作業が止まる」
「社長と課長とで言うことが違って、どうしたらいいかわからない」

こうした声が社内で聞こえてくるような事態は、あまり感心できません。

さらにエスカレートすると軽いアドバイスのつもりが、

「そんなことは聞いていない」
「あれはこっちの資料を使わなきゃダメだろ」

と指示口調になり、やがて、

「オレが現役なら、この程度の仕事は30分でできるぞ」
「おまえ、何年この仕事やってるんだ」

と怒鳴り声になる。

特に自身がその分野のスペシャリストだった人は、当時の自分のレベルと比較してイライラし、声を荒らげて叱責してしまう。ここまでくると現場全体の士気にも影響する大問題になってしまいます。

自分は社長でもあるけれど、スペシャリストでもいたい──。

優秀で努力家の人ほど、このように感じてしまうようです。

しかし、会社には役割分担というものがあります。

社長の役割を任された今は、何よりもその任を果たすことに全力を注がなければなりません社長がするべきは、現場の業務は「現場で働く役割の人」に任せ、その上で組織運営に則った適切なチェックを行うことなのです。

なかには、「社内事情や仕事の状況をすべて把握しておかないと気が済まない」という性分の社長もいます。こういうタイプも現場に対して過干渉になりやすく、納得できないとイライラして叱責するという行動に走りがちです。

しかし、それは自分が安心したいだけのハタ迷惑な自己満足でしかありません。もしが従業員に「自分たちを信用していない」と受け取られれば、会社への不信感にも直結してしまいます。

社長には社長がわきまえるべき「分」があります。

一般社員が社長の役割を担う必要がないように、社長が一般社員の役割にまで口を出す必要もありません。それが従業員を信じるということです。

社長が現場に口を出しすぎると、最終的に組織は機能不全に陥ります。従業員は自ら考えることを放棄し、管理職は判断をすべて社長決裁に委ねるため、もはや組織としての機能を果たさなくなってしまいます。

各々が自分の役割ですべきことをしっかりと果たすことで、会社は円滑に機能していきます。そのためには、まず社長自らが役割分担を守り、自分がするべき仕事に集中することが大事なのです。

※「よそ者リーダーとはどんな人か」「よそ者リーダーが身につけたい3つの心構えやマネジメントとは何か」については、本連載の第1回も併せてご覧いただければと思います。

次回は、新任リーダーがハマりがちな「全否定の落とし穴」についてお伝えします)