わかりやすいのが、昨年7月の「BBC Travel」の「Why are the Japanese so resilient?」という記事である。

 これによれば、日本人が関東大震災、広島・長崎の原爆投下、阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件、東日本大震災など度重なる困難に直面しても、それに屈することなく必ず立ち上がり、繁栄を築いてきたのは、ひとえに日本人の「レジリエンス力」(ダメージを受けた際の回復力)が高いからだという。「しょうがない」「がんばって」「我慢」などレジリエンス的な言葉が日常に溢れているのが、その証だという。

 そんなレジリエンス国家・日本は、コロナ禍で混迷する世界がお手本とすべきような国なので、2021年の五輪もコロナからの復興を示す素晴らしいイベントになるはずだ…というような内容の記事で、聞いているこちらが恥ずかしくなるほどベタ褒めだ。

 そう聞くと、「どうにか五輪を開催させるためにも持ち上げているのでは?」と勘繰る人も多いだろうが、実はこういう「ガマン大国ニッポン」への称賛の声はずいぶん昔からあるのだ。

震災時に、世界に称賛された日本人精神
その裏で日本人が失ったもの

 日本への称賛で有名なのは、東日本大震災時、ニューヨーク・タイムズが掲載した「Sympathy for Japan, and Admiration」というコラムだ。

 これは1995年の阪神大震災時に、日本支局長だったニコラス・クリストフ氏が取材した際に感じたことを回想して書いたものだ。未曾有の災害が起きた際、他国では当たり前の略奪行為がほとんど確認されていなかったと紹介し、そこには日本人の「gaman」という忍耐強さや、「shikata ga nai」という想定外の事態に直面した時の冷静な決意があると指摘したのだ。

 同じような指摘は、東日本大震災の時、多くの海外メディアからあった。つまり、世界から見るとわれわれ日本人はどんなに理不尽な出来事や困難に直面しても、「おしん」のようにグッと堪えて黙々と目標に突き進んでいく人々という、ポジティブなイメージが定着しているのだ。コーツ氏は日本人へのリップサービスとして良かれと思ってそこに言及した可能性が高いのだ。

 …と聞くと、「まあ確かに日本人のストイックさは世界一だけどさ」と悪い気はしないだろうが、物事にはなんでも良い面と悪い面がある。実はわれわれは世界でも有数の「ガマン大国」という評価を得たことと引き換えに、ある大事なものを失っている恐れがある。

 それは「好きなことをして生きる」という自由だ。