発展のカギは「みんな仲良く」

 政情を安定させたシンガポールでしたが、とにかく狭いのです。

 何せ東京特別区とほぼ同等ですから。シンガポールは狭い国土を開発したため、原生林はほとんどありません。経済成長すれば就業機会は増えます。結果、可容人口は大きくなりますが、さすがにこれだけ狭いとすぐ飽和状態になります。

 それだけ狭い国ですから、農業はほとんど行われていません。主要輸出品目の中に農産物はありません。

 狭いから資源が出ない。しかしまわりを見渡せば、インドネシアやマレーシア、ブルネイといった産油国があります。シンガポールは原油を輸入し、石油製品に加工して輸出する。こうした加工貿易に特化したのです。

 またシンガポールは税率が低い国としても有名です。税制上の優遇措置もあり、外国企業の誘致に大いに効果がありました。

シンガポールの資源は「人間」

 シンガポールの資源は「人間」ということです。人口が少ない国の経済成長において、人材育成は最優先課題なのです。

 それがゆえに政情の安定を作り出したのです。政情が安定し、観光業や金融業が発達しました。台風が来ないことも経済発展の要因の1つでしたね。

 シンガポールは、「みんな仲良く」を国是として経済成長を遂げてきたのです。(本原稿は、宮路秀作著『経済は地理から学べ!』を抜粋、再構成したものです)。

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宮路秀作(みやじ・しゅうさく)
代々木ゼミナール・地理講師

代々木ゼミナール地理講師、コラムニスト。鹿児島市出身。「センター地理」から「東大地理」まで、代々木ゼミナールで開講されているすべての地理講座を担当するオールマイティーな実力をもつ。「地理」を通して、現代世界の「なぜ?」「どうして?」を解き明かす講義は、9割以上の生徒から「地理を学んでよかった!」と大好評。講義の指針は、「地理とは、地球上の理(ことわり)である」。

2017年に刊行した『経済は地理から学べ!』はベストセラーとなり、これが「地理学の啓発・普及に貢献した」と評価され、2017年度の日本地理学会賞(社会貢献部門)を受賞。大学教員を中心に創設された「地理学のアウトリーチ研究グループ」にも加わり、2021年より日本地理学会企画専門委員会委員となる。