ロックな経済学者が明かす、音楽レーベルがアーティストを「搾取」してしまうワケPhoto: Adobe Stock

不透明性が高まるいま、「人々を熱狂させる未来」を“先取り”し続けてきた音楽に目を向けることで、どんなヒントが得られるのだろうか? オバマ政権で経済ブレーンを務めた経済学者による『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』がついに刊行となった。自身も熱烈なロックファンだというの経済学の重鎮アラン・B・クルーガーが、音楽やアーティストの分析を通じて、ビジネスや人生を切り開くための道を探った一冊だ。バラク・オバマ元米国大統領も、この「ロックな経済学(ROCKONOMICS)」というコンセプトに強い関心を示しており、本書に熱い絶賛コメントを寄せているという。本記事では同書の一部を抜粋して紹介する。

「ロックな経済学」とは何か?

 ケベック大学のマリー・コナリーとぼくが初めて「ロックな経済学(ロッコノミクス)」という言葉を使ったのは2005年に書いた記事のタイトルでのことだ。

 その後『USAトゥデイ』紙が間違って、ぼくがこの言葉を作ったと書いた。

 たしかにぼくらはこの新語に自分たちでたどり着いた。友だちのスティーヴン・レヴィットとスティーヴン・ダブナーが『ヤバい経済学(フリーコノミクス)』〔望月衛訳/東洋経済新報社〕を出したのと同じ頃だ。でもその後、この言葉はもっと早くから使われていたのに気づいた。

 1984年10月に、ビル・シュタイガーワルドが『ロサンゼルス・タイムズ』紙に記事を書き、ブルース・スプリングスティーンがコンサートのチケットの値段を全部同じにしているのは経済学的に考えが足りないと主張した。

 そのせいでチケットは45分で完売してしまったのに、ダフ屋が商売に精を出しているのを見てぶつぶつ言うのは考えが足りないというのだ。

 シュタイガーワルドが書いた記事のタイトルはこうだ。

サプライサイドのロックな経済学

 ぼくの知る限り、この言葉が最初に使われたのはこの記事だ(でも、ほんとのところ、ブルースは経済学的に考えが足りなかったりはしないんだけど)。

 マーク・エリオットが1989年に『ロックな経済学──音楽の裏にはお金がある』〔未邦訳〕を書いて、音楽に関わる契約の醜さを詳しく記している。

 アーティストがレコード・レーベルやマネージャーにひどい扱いを受けたり騙されたりする例はたくさんある。

 でもほとんどの場合、ミュージシャンがお金の面でがっかりすることになるのは、音楽業界の経済の仕組みが厳しいのが原因で、誰ぞの悪気のせいじゃない。

 本書では音楽にかかわる契約を経済の文脈で捉え直す

 ほとんどのミュージシャンの場合、そうした契約が不当に見えることもあるし、スーパースターの場合でも、レコーディングに関わる契約は不当であったりする。

 たとえば、レコード・レーベルにとってちゃんと黒字にたどり着くアルバムは10枚にたった1枚か2枚だ。だからレコード会社は、ヒットしたアルバムの契約で、儲けの出ないその他の契約全部の費用と投資を賄って、そのうえ利益を上げないといけないことになる。

 それでも、アーティストが自分の稼ぎを守り、将来に備えてとっておくために使える簡単な手順がある。

 たとえば業界で広まった習わしの1つがそれで、お金を回収して勘定するのはアーティスト自身がやり、それからマネージャーに取り分を払うのだ。そうすれば持ち逃げされたり行き違いが起きたりするのを避けられる。

『USAトゥデイ』紙の記事が出た後、ロサンゼルスの音楽プロデューサー、ロン・クリストファーがこう知らせてくれた。

 彼はフラッシュ・カハンというバンドが1985年にキャピトル・レコーズから出したアルバムでミックスを担当していた。そのアルバムに「ロッカノミクス(Rockanomics)」って曲が入っていたそうだ。歌詞にはこんな、長く忘れ去られていた一節があった。

 国産ギターを手放し シェヴィを手に入れ
 ロックの経済学 ロックの経済学

 思っただろうけど、「ロッカノミクス」は誰もが知っている言葉にはならなかったし、曲もヒットしなかった。

 この本の文脈では、人気があって経済学で分析できる音楽はなんでもロックな経済学の守備範囲だ。ということは、音楽のジャンル全部、事業のあらゆる側面が対象ということになる。

 学校の後の習い事でやる音楽から箱バン、カーネギー・ホール、ティケットマスター、ライヴ・ネイション、スポティファイ、アバからZZトップまで全部だ。

 ビリー・ジョエルの歌になぞらえよう。ホットなファンクもクールなパンクも、なんなら古いジャンクでも、オレにはロックな経済学。

(本原稿は『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』(アラン・B・クルーガー著、望月衛訳)からの抜粋です)