クックパッドコーポレートブランディング部本部長の小竹貴子さんが上梓した『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』には、料理が根本から得意になる考え方が書かれています。『発達障害サバイバルガイド』の著者・借金玉さんは、小竹さんの料理にはおいしくなる「しくみ」があるといいます。料理に苦手意識を持っている人が陥りがちな習慣と、料理が上達するコツを語りあってもらいました。(取材・構成/杉本透子)
簡単に料理上手になるためには道具を変える
小竹貴子(以下、小竹) 全然切れない包丁を使っている方の場合、包丁を変えるだけで全然仕上がりが違ってくることもあります。
借金玉 料理の腕を上げるより道具にお金をかける方が早いってありますよね。というか、良い道具を手に入れて使い方を覚えるれば「腕が上がる」のか。
小竹 借金玉さんの本の「環境を変える」話に近いんですけど。まな板もツルツルで薄い、年季の入ったのを使っている方がけっこう多くて。まな板を変えるだけでテンションが上がったりするので、ぜひまな板を変えてほしいなと思います。
借金玉 まな板って机の上なので、机の上が狭いとやっぱり作業ってきつくなりますね。プロはすごい大きなまな板を使うんですけど、そんなもの使うたびにいちいち洗っていられないので100円ショップの薄いまな板を10枚くらい並べておいて、簡単な作業は大きなまな板の上に100円ショップのまな板を置いてやっていました。
小竹 私は正方形のまな板を2枚組み合わせて使っています。洗いやすいし、大きな食材を切るときは並べて使えて便利ですよ。食材より環境を変えるだけで、料理は上手にもなるかもしれませんね。
借金玉 フライパンも厚くてでかくて深いフライパンがいい。僕は「北陸アルミニウム」のテフロン加工のフライパンをおすすめします。
小竹 道具からっていうと鉄鍋を買ったり、土鍋でご飯を炊く人もいるんですが、これらは手入れが大変なので、まず簡単なところからおすすめしたいです。包丁、まな板、フライパンは見直してみるの、おすすめです。
借金玉 本格的な道具って意外と不親切なんですよね。中華鍋を使って食材をものすごく振りたがる人もいるけど、あれ実は家庭のガスコンロ火力ではほとんど意味がない。家庭でチャーハンを作るなら、振るんじゃなくてむしろいじらない、ご飯を押し付けて作った方がうまくいきますし、厚みがあり焦げ付かないテフロンフライパンの方が使い勝手がいい。イメージの良いものではなく「使える」ものを買うのがいいですね。包丁も、油断するとすぐサビサビになる和包丁よりはとりあえずステンレスから入った方がいい。
小竹 料理教室をしていても、「触らないで」とよく言います。あと「強火にしないで」とも。何も言わないと、みなさんガンガン強火にかけて煮詰めてしまうんです。料理イコール強火で鍋を振るという印象があるみたいですね。
借金玉 大急ぎでお湯を沸かすときぐらいしか強火なんて使わないですよね。むしろ、いかに火を弱くするか悩むぐらいで。意外なほど、一般の人がイメージする料理は現実から離れているところがある、勉強になりますね。お客さんにきちんと伝わる形で料理の話をするのは本当に難しい……。
「料理がしんどい」を解消する方法
借金玉 僕は人に直接料理を教えた経験っていうのは少ないのですが、小竹さんはお料理教室をされていて、けっこう意外なことができないなという実感を持たれていますか?
小竹 私の料理教室は普通のお料理の先生がやっているのとはちょっと違って、「自分でもできる」という感覚を持っていただくための教室なんです。本当に初心者の向けの場合は、1回の料理教室で1テーマと決めて、「千切りを習得するための冷やし中華」とか、「火が通ったことを理解するための生姜焼き」とか。一つ覚えて帰ってもらうと、たとえば千切りが楽しくなった人はその後Youtubeで千切りの動画を見てものすごく上手になったりするんです。
借金玉 なるほどなるほど。テクニカルな楽しみ方をちょっと覚えてもらうというか。
小竹 そうです。肉を焼くにしても、いつ火を止めればいいのかわからない方が多くて。火の止め方がわかったら、「生姜焼きの次は牛丼を作ってみよう」とか、勝手にステップしていけます。そんな風に調理のスキルベースでずっとやっていますね。いわゆるサロン的にみんなでタイ料理を作って楽しむとかではないですね。卵の割り方を知らないっていう方もいらっしゃいますから。
借金玉 僕だったら豚肉の加熱温度と肉の硬さの曲線グラフをまず出しちゃう気がします(笑)。低温調理で6時間火を入れた肉とか。でもそういう話ではなくて、「薄切り肉は火を入れすぎるとガチガチになりますよ」ってことですよね。おいしいレンジに抑えるっていう発想。そこから階段を一段ずつ上がっていってほしいというやり方ですね。
小竹 基本の調理スキルさえ身につけば、「これができた」「自分にもできるんだ」っていう小さな成功の積み上げができて、自分で成長していけます。今回の新型コロナウイルスの状況もあって、「料理がしんどい」っていう方が本当に多いんですね。そこをどうにかして解消してあげたい。それは料理自体に成長の実感が持てるかどうかなんです。お金さえあれば全部ウーバーイーツでいいじゃないかという話になってしまうんですが、お腹を満たすだけじゃなくてそこに楽しみがあるということを伝えていきたいです。
借金玉 なるほど……。僕は今まで文章で初心者に料理のセオリーを教えることをやってきて、感覚が合う人とそうでない人がいるなと思っていましたが、とにかく知識を伝えることばかり腐心して「最初の一歩をうまく引っ張り出す」みたいな視点は完全に欠けていた気がします。いや、勉強になりました。
クックパッド株式会社Evangelist、コーポレートブランディング部本部長
1972年石川県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。株式会社博報堂アイ・スタジオでWEBディレクターを経験後、2004年有限会社コイン(後のクックパッド株式会社)入社。広告主とユーザーのwin-winを叶えた全く新しいレシピコンテストを生み出す。2006年編集部門長就任、2008年執行役就任。2010年、日経ウーマンオブザイヤー2011受賞。2012年、クックパッド株式会社を退社、独立。2016年4月クックパッドに復職、現在に至る。また個人活動として料理教室なども開催している。シンプルでおいしく、しかも手順がとても簡単なレシピが大人気で、生徒から「料理のハードルが低くなった」「毎日料理が楽しいと感じられるようになるなんて」の声多数。日経BPから上梓した『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』が現在7刷のロングヒットに。
1985年、北海道生まれ。ADHD(注意欠如・多動症)と診断されコンサータを服用して暮らす発達障害者。二次障害に双極性障害。幼少期から社会適応がまるでできず、小学校、中学校と不登校をくりかえし、高校は落第寸前で卒業。極貧シェアハウス生活を経て、早稲田大学に入学。卒業後、大手金融機関に就職するが、何ひとつ仕事ができず2年で退職。その後、かき集めた出資金を元手に一発逆転を狙って飲食業界で起業、貿易事業等に進出し経営を多角化。一時は従業員が10人ほどまで拡大し波に乗るも、いろいろなつらいことがあって事業破綻。2000万円の借金を抱える。飛び降りるためのビルを探すなどの日々を送ったが、1年かけて「うつの底」からはい出し、非正規雇用の不動産営業マンとして働き始める。現在は、不動産営業とライター・作家業をかけ持ちする。最新刊は『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』。