「従来の事業を後生大事に保守し、あるいは過失失敗をおそれて逡巡するごとき弱い気力では到底国運のあとへひく」

「余りに堅苦しく物事に拘泥し、細事に没頭するときは、自然にはつらつたる気力を銷磨してしまうのでこの点も深く注意しなければならない。」

「細心周知なる努力は必要であるが、一方、大胆なる気力を発揮して、細心大胆両者で、はつらつたる活動をなし、始めて大事業を完成しえるものであるから近来の傾向については大いに警戒しなければならぬ」

渋沢健氏(提供)渋沢健氏(提供)

「また細事にこだわり、部局のことにのみ没頭する結果、法律規則の類を増発し、汲々としてその規定に触れまいとし、あるいはその規定内の事に満足し、あくせくしているようでは、とても進新の事業を経営し、はつらつたる生気を生じ、世界の大勢に駕することはおぼつかない」(出所:『論語と算盤』「細心にして大胆になれ」)

 システム障害が起こらないように細事を詰めることは、もちろんのことです。しかし、はつらつたる気力に障害がある組織が社会におけるパーパス(何故という問いに答える存在意義)があると言えるでしょうか。前例から学び、けれども前例に問われることない、新進の事業でなければパーパスを果たしていると言えるのでしょうか。

 そして、栄一は『青淵百話』という講演録で「会社銀行員の必要的資格」という考えも残しています。

SDGs投資 資産運用しながら社会貢献『SDGs投資 資産運用しながら社会貢献』
渋澤 健 著
定価891円
(朝日新書)

 第一 実直になること。
 第二 勤勉精励なること。
 第三 着実なること。
 第四 活発になること。
 第五 温良なること。
 第六 規律を重んずること。
 第七 耐忍力あること。

 これは、栄一によると「太平の世に生れた良民、即ち常識的人間」だそうです。つまり、そんなに特殊なことを要求している訳ではないということです。

 まず、みずほ銀行の皆さんは、縦横横断で『論語と算盤』を一緒にお読みなってインナーコミュニケ―ションを促すことをお勧めしますが、いかがでしょうか。(渋沢健)

◆しぶさわ・けん シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役、コモンズ投信株式会社取締役会長。経済同友会幹事、UNDP SDG Impact 企画運営委員会委員、東京大学総長室アドバイザー、成蹊大学客員教授、等。渋沢栄一の玄孫。幼少期から大学卒業まで米国育ち、40歳に独立したときに栄一の思想と出会う。近著は「SDGs投資」(朝日新聞出版)

AERA dot.より転載