2 on 2が目指すもの
2 on 2が目指しているのは、問題に対しての理解を深め、背後にある慢性疾患へのセルフケアを確立していくことです。
そのためには、参加メンバーの様々な視点を観察し、問題についての理解を深めていくことが不可欠です。
そのために大事な点は、問題解決策を言わないことです。これは非常に重要です。
すぐに問題解決策を言ってしまうと、問題の背後について考えることができなくなってしまいます。
問題解決策を言うとは、その問題はすでにわかっていると宣言することであり、それ以上、何が問題なのかを考えることを放棄することだと肝に銘じてください。
解決策を提示すると、わかりきった答え(「もっとチーム内で話し合ったほうがいい。教えてもらいたいと思っていることをもっと周りに言ったほうがいい」)や、抽象的な概念(「心理的安全性が低いことが問題かな」)に終始し、その問題の核心に迫れなくなるのです。
仮に心理的安全性が低いのが問題として、互いに言いたいことを言い合う時間を30分設けたとしましょう。
それで何か改善するのでしょうか。
改善するかもしれませんし、しないかもしれません。
この場合に考えるべきことは、「自分たちの組織で仕事を教え合わない」ことが何を意味しているかということです。
互いに教え合わない問題の背後には、何があるのでしょうか。
たとえば、Cさんが次のように答えたらどう変わるでしょうか。
Cさん:「自分たちの組織で仕事を教え合わなくなったのは、いつ頃からだろう。何がきっかけでそういうことになってきたんだろう。逆に、もっと仕事をみんなで教え合わなくするにはどうしたらいいだろう」
なぜ?(why)ではなく、
いつ頃から?(when)、どのようにして?(how)を問う
どうでしょうか。
こう投げかけてみると、問題が生じてきた過程に目が向き、問題についてもっと立体的・重層的に考えられるようになったと思いませんか。
ここでのポイントは、なぜ?(why)ではなく、いつ頃から?(when)、どのようにして?(how)問題が生じてきたのかに目が向けられていることです。
何か問題が起こると、「なんでこの問題が起きたんだろう?」と問いたくなります。
「なんで教え合わないの?」と質問をすると、信頼関係がある程度あっても、聞かれた人は非難されていると感じるかもしれません。
これはなぜかというと、「教え合わない」現象について、「教え合わないことは悪であり、なぜそれが起きたのか」と質問しているからです。
つまり、問題自体は「教え合わないこと」に固定され、その論理を解明しようとしているのです。
その質問自体は悪いことではありません。
もし、他の人も含めて教え合わないことが頻発しているなら、「教え合わない」問題が、組織の慢性疾患を告げている可能性があります。
「なぜ?」と質問するのではなく、この問題がどんな必然性があってこの組織で生じたのかを解明することが肝心です。
そのために、「いつ頃から?」「どういうきっかけで?」「どんなときに?」と質問するのです。
Cさんの最後にあったセリフ「逆に、もっと仕事をみんなで教え合わなくするにはどうしたらいいだろう」は、反転の問いかけです。
一度問題を反転させてみると、問題のトリガーがいくつも浮かび上がってきます。
たとえば、一人ひとりが自分の業務範囲だけに目を配って、他の人がどんな仕事をしているのか、関心を持たないようにする。仕事が重なっているところがあっても、見て見ぬ振りをしておく問題が出てきたとしましょう。そうすると、どうやら業務範囲が近頃変化してきているが、整理されずにいる問題が背後にありそうだと見えてきます。
対処方法をいろいろ考えていけそうです。
問題解決策を言わずに問題を掘り下げていった先で、何が見つかるのが大事かと言えば、自分もその問題の一部であると気づくことです。
宇田川元一(うだがわ・もとかず)
経営学者/埼玉大学 経済経営系大学院 准教授
1977年、東京都生まれ。2000年、立教大学経済学部卒業。2002年、同大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2006年、明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得。
2006年、早稲田大学アジア太平洋研究センター助手。2007年、長崎大学経済学部講師・准教授。2010年、西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より埼玉大学大学院人文社会科学研究科(通称:経済経営系大学院)准教授。
専門は、経営戦略論、組織論。ナラティヴ・アプローチに基づいた企業変革、イノベーション推進、戦略開発の研究を行っている。また、大手製造業やスタートアップ企業のイノベーション推進や企業変革のアドバイザーとして、その実践を支援している。著書に『他者と働く――「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパブリッシング)がある。
日本の人事部「HRアワード2020」書籍部門最優秀賞受賞(『他者と働く』)。2007年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。
【著者からのメッセージ】
今、最も注目を集める“在野の学者”が、
新しい対話の方法「2 on 2」を
初めて語る!
はじめまして。宇田川元一です。
この本は、おもに企業で働くミドル・マネジャーを想定して書きました。
その理由は、組織の慢性疾患がミドルという立場に表現されやすく、問題を実感しやすい立場だからです。
それは裏を返せば、ミドルの方々こそ、組織の慢性疾患に対してセルフケアを実現していくと、変革の手応えが一番実感できるのです。
慢性疾患には、日々途切れなくその病とつき合わざるをえないイメージがあります。事実、組織で働く多くの人たちは、身体感覚を伴いながら、組織の慢性疾患の痛みに苦しんでいるのではないかと思います。
組織の慢性疾患へのセルフケアを行えないことが、今日の企業社会をいわば「問題解決策依存症」へと陥らせているのではないでしょうか。
何かガラッと企業を変えてくれる手法はないのかと、次々と現れる問題解決手法やコンサルティングサービスに飛びついてはまたダメだったと徒労感に見舞われる。すると徐々にあきらめが蔓延し、それを紛らわすために違う解決策を探しさまよう人たちの姿を目にすると、本当にいたたまれなくなります。
「問題解決策依存症」とは、手のつけどころがわからない複雑な問題に対し、手近にある解決策を取り続けている状態のこと。でも、自分たちで手を携えてやっかいな問題にも手をつけられるのだと実感が湧いてくれば、この依存症から回復することができます。そして、確かな変革への手応えを感じながら歩み始めることができるのです。
だからこそ本書を通じて、ミドルの方々には、以下のような7つの効能を実感してもらえたらと思っています。
1. 自分も相手も見えている風景が変わる
2. 自分でしょいこんでいた荷物をおろす方法がわかる
3. 人の力を借りられるようになる
4. ひとりで悩まなくなる
5. 4人1組の「2 on 2」で言語化できないモヤモヤの正体が現れる
6. 上司と部下が協力し合える
7. 組織が変わる
これらの実感を得られるよう、組織の慢性疾患へのセルフケアを、手応えを感じながら実践できるようにする。そして、セルフケアし続けられるようになる。それが本書の目指すものです。本書には、体験者の声や共同開発者(リクルートマネジメントソリューションズ)の現場の生の声も収録しています。
一体、この先どうしたらいいのかと途方に暮れる組織のやっかいな問題の中にこそ、ぜひ希望を見出してください。その対処方法をこの本でつかんでいただけたら幸いです。
☆☆4/26「日本経済新聞」掲載!☆☆
★大人気ランキングベスト5★
【第1位】なぜ、「なぜ?(why)」と問うのが、ダメなのか?
【第2位】「心理的安全性の罠」にダマされるな!
【第3位】「1 on 1」と「2 on 2」の違いってなんだろう?
【第4位】「ティール組織にしよう」というアプローチが極めてナンセンスな理由
【第5位】体験者が初告白!「私にとって 2 on 2 は、言語化できないモヤモヤの正体が形になって現れた衝撃の体験でした。」
(目次)
『組織が変わる
――行き詰まりから一歩抜け出す対話の方法 2 on 2』
Contents 目次
はじめに
抜本的な変革は本当に必要か?/弱いシグナルを検知し、積極的に対応する「マインドフルな組織/組織の慢性疾患に対処するミドルの役割
◎第1章 組織で対話が必要な理由
1 正体不明の組織の閉塞感は、何が原因なのか/2 誰かすごいリーダーがきて、組織を変えてくれるのか/3 組織の慢性疾患を改善する方法論「対話」とは/組織の慢性疾患を発見する対話/他者は、私とは違う現実を見ている存在/あのトヨタが「マインドレスな組織」に陥った5つの理由/【column】センスメイキングとは、小さな違和感に対して探索を行い、新たな意味を生み出していくプロセス
◎第2章 組織が抱える慢性疾患へのアプローチ
1 そもそも組織の慢性疾患とは何か/慢性疾患にはセルフケアが欠かせない/組織が抱える慢性疾患の例/2 組織の慢性疾患「6つ」の特徴/3 組織の慢性疾患への4つの対処方法/4 慢性疾患へアプローチする際の注意点/1 組織の慢性疾患のポジティブな意味とは/慢性疾患を対話的に解きほぐす/2 恐ろしい合併症のリスク/「心理的安全性」の罠/【column】足元からの変革を積み重ねていくことで、組織の風景は変わる
◎第3章 対話とは何か
1 そもそも対話とは何か/対話に必要な4つのステップ/問題と部下たちの見え方が大きく変わる瞬間/2 対話の3つのスタンス/対話の際に心がけたい3つのスタンス/対話は「ナラティヴ」を変容させる実践/自分とは異なる他者のナラティヴとの間に橋を架ける発想/まず、相手のナラティヴに巻き込まれてみる/自分の喜怒哀楽を大切にしよう/対話とは何だろう?/自分も問題の一部かもしれない/3 対話とは、わかり合うことを目指すものではない/対話はわかり合うことが目的ではない理由/押しつけがましい「対話」は、対話ではない/4 対話を通じて、もっとよい助け方を身につける/問題は責任感の欠如ではない/他者との依存関係を構築できるか/同じような悩みを抱える話し相手を見つける/自分の感情、心の動きをひも解いてみる/問題は複雑な背景を持って出てきている/「なぜ?(why)」と問わない理由/他者とともに問題に向き合っていく姿勢/5 対話の過程で生じることに向き合うと見えてくるもの/マネジャーがトップの悩みを想像してみると……/「同じ方向を向くことが大切だ」に反論する/同じナラティヴを生きていなくても、ともに仕事はできる/新しいナラティヴが生まれる瞬間/【column】他者を交えて対話することに意味がある
◎第4章 新しい対話の方法「2 on 2」とは何か
1 2 on 2は対話モードで問題に向き合うための方法論/2 on 2が有効になる兆候/何に困っているかよくわからない大問題/2 on 2の独特な問題の掘り下げ方/2 2 on 2は4人1組で行う/(1)2 on 2を進める6つのステップ/(2)2 on 2実施の注意ポイント/3 2 on 2を実際にやると、どうなる?/登場人物/αチームの1ターン目/βチームの1ターン目/αチームの2ターン目/βチームの2ターン目/問題に「ソンタック」という妖怪の名をつける/「ソンタック」発見後の気づき/素直に自分の感情を交えて話すように変わった
◎第5章 2 on 2の何が効果的か
2 on 2の体験者に聞く言語化できないモヤモヤの正体が、形になって現れる/言語化できないモヤモヤが形になる衝撃の「反転の問いかけ」/1 on 1より、2 on 2が有効!?/ 妖怪「一つ目小僧」のぼやき/2 on 2がなければ気づけなかったこと/「2 on 2」と呼ばず、「ネガティブ感情共有ワーク」にした理由/そこに「妖怪」がいると認識することが会社を変える一歩/2 on 2の共同開発者に聞く/組織の見えない問題があぶり出される画期的な方法/2 on 2が生まれた背景/2 on 2の意義/2 on 2は同じ職場同士でやるのが一番/組織で導入するコツ/体験者と共同開発者インタビューから見えてきたこと/自分の課題からスタート/1 on 1と2 on 2の違い
◎第6章 2 on 2を実施する際にやってはいけない6つのこと
1 2 on 2を実施する理由が共有されていない/参加者にうまく呼びかける方法/2 on 2は問題解決を一度脇に置く/2 すぐに問題解決策を言ってはいけない/問題解決策を言ってはいけない理由/3 全部周りのせい、他人のせいにしない/カギを握るCさんとDさんの投げかけ/「反転の問いかけ」で困りごとの意味を発見する/有効な2つのアプローチ/4 きれいに終わらせようとしない/5 周りの人たちは自分の話を始めない/6 目新しいだけで始めない
◎第7章 なぜ、2 on 2を開発したのか
1 対話を組織の中でどう実践していくか/『他者と働く』に寄せられた感想/自分では気づけないことを他者は簡単に気がつく理由/企業で対話を実践する難しさを痛感/2 2 on 2を設計するうえで重視したこと/時間がないから気軽にできる/成果を実感できるものに/何に困っているのかわかりにくい/目の前の問題は、背後にある問題を知らせてくれるアラート/他者の声や視点がとても重要になる理由/問題扱いせずに「問題を外在化」する/3 2 on 2が誕生した理論的背景
◎終章:組織が変わるとはどういうことか
1 組織は物語でできている/2 その組織の物語がどう変わるか/3 小さくとも一歩を踏み出す
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