百聞は一見にしかず――これは、視覚から得られる情報の説得力の強さをあらわす表現だが、裏を返せば、人間は目で見たものを信じやすいということだ。特に写真は事実を映しとったものと思いがちだが、デジタル写真の時代は、パソコンひとつで加工や修正ができ、「写真で嘘をつく」のも簡単だ。
まずはNewsweek誌の表紙を飾ったマーサ・スチュアートの写真をご覧いただきたい。このケースでは、刑期を終えてスリムになったことを強調するために、モデルの全身写真にマーサの首から上だけを重ねる合成がなされた。こうした画像加工は氷山の一角で、ジャーナリズムの世界ですら枚挙に暇がないという。
そういった写真の信憑性をめぐる問題に取り組んでいる企業がアメリカにある。Fourandsix Technologiesというスタートアップで、この9月に製品第一弾となるFourMatchをリリースした。これはAdobe Photoshop用の拡張機能ソフトで、jpeg画像に加工の痕跡があるかどうかを判別することに使えるという。
判定の仕組みはこうだ。jpegファイルには、撮影したデジカメのシグネチャー(メーカー名/型番)が付されている。しかし、ソフトウェアで何らかの修正がなされると、シグネチャーが変更される。それを基準に加工の有無を診断するわけだ。FourMatchにはデジカメ製品と画像処理ソフトについての7万件以上ものデータベースが組み込まれており、画像のサイズ、圧縮、サムネイル、メタデータの4項目についてオリジナルとの差異を判定し、加工や修正に使われた可能性のあるソフト名を表示してくれる。
画像管理ソフトによるサイズ変更程度でカメラ名(キャプチャデバイス名)が残っていれば黄信号を、Photoshopなどによる加工によってカメラ名が不明になった場合には赤信号を灯す仕組みだ。
従来、写真の合成を見抜くには影の向きの不自然さに着目するなど専門的知識が不可欠だったが、FourMatchなら専門家の判断に頼らずとも、自動的にソフトが判定してくれる。
ただし問題は、サイトの掲載スペースに合わせたトリミングといったような悪意のない加工までが、現状では疑わしいものと判定されてしまうことだ。デジカメで撮った画像をそのままウェブにアップする人はまずいない。Fourandsix社は法廷での証拠写真の鑑定を想定用途の第一に挙げているが、たしかに現状の機能で価値を見いだせるのは、裁判のような事実がシビアに争われる場面ぐらいかもしれない。
しかし、FourMatchはあくまで第一弾だ。実際、Fourandsix社はさらなる開発に取り組んでいる。共同創立者で大学教授でもあるハニー・ファリド氏には、人物写真に特化して被写体の肌つやや輪郭がPhotoshopで修正されたことを8割の精度で突き止めるソフトを開発するなどの実績もある。そうしたノウハウも取り入れることで、今後の製品はどんどん賢くなっていくだろう。
画像加工の有無がソフトで自動検知でき、オリジナル画像のどの部分がどう改変されたかまでが突き止められるようになれば、たとえばネットオークションの出品画像も眉に唾して見る必要がなくなり、利用者全般にとって大きな利益となる。そうした意味では画像診断ソフトというジャンルは、隠れた鉱脈なのかもしれない。
(待兼音二郎/5時から作家塾(R))