コロナ禍で変化した
英語のあいさつ

 コロナ禍において、こうした定型化したあいさつの表現にも変化の兆しが出てきています。

「How are you?」という表現を耳にする機会が減り、代わりに増えているのが、「How have you been?」(元気だった?)です。

 今の状態を尋ねる形の「How are you?」に対し、「How have you been?」は、前回会った(過去の)時点から現時点までの状態を尋ねる「現在完了系」と呼ばれる表現です。過去から続く現在の様子を尋ねていることから、「会っていない時間があったこと」を感じさせるニュアンスを含みます。

 長引くコロナ禍で、多くの人がオンラインをフル活用した業務や生活に、随分と慣れてきました。社外の人とのミーティングも、よほどの理由がなければ、直接、会って行うこともほとんどありませんし、リアルに出社していたときのように、誰かとフロアや廊下で偶然会って、立ち話をするようなことも起こりません。

 このように、人と会う機会が減り、誰かと顔を合わせるときは「久しぶり」であることが多くなったことから、「(今)元気?」といった表現よりも、「(前に会ったときから今まで)元気だった?」といった表現の使用頻度が増えてきているようです。

「How have you been?」もクエスチョンマークが付いているものの、「How are you?」と同様に、「質問」ではなく「あいさつ」のニュアンスが強い表現です。

 ただ、お互いにコロナ禍という未曽有の状況下にいるため、「I am fine.」のように「問題ないよ」という返答ではなく、「I am surviving!」(何とか生きてるよ!)や、「It's tough!」(大変だよ!)と返す、そのようなやりとりが日常的になってきました(とはいえ「あいさつ」なので、実際に何が大変なのかを細かく説明することはやはりしません)。

コロナ禍で一般的になった
新種(?)のあいさつ

 また、コロナ禍で増えたあいさつに「Stay safe.」(気をつけてね)があります。今や、「See you.」(またね)や「Nice meeting you.」(お会いできてうれしかったです)と同程度の頻度で、別れ際のあいさつやメッセージの締めくくりとしてこの表現が使われているように思えます。「Stay」は、「一定期間その状態でいる」ことを示す言葉です。

 コロナ禍前は、「Stay safe.」があいさつ代わりに使われることはめったにありませんでした。あるとしても、相手が危険な場所に出向く前など、限られたシーンにおいてです。

「Stay safe.」があいさつとして日常的に使われることとなった現状を冷静に見ると、世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスという感染症の恐ろしさをあらためて感じます。

 あいさつの根本には、やはり相手への気づかいや思いやりがあります。コロナ禍で「気をつけてね、安全にね」とお互いを思いやる気持ちが言葉となり、あいさつの表現のひとつとして使われるようになったのでしょう。

 よく「言葉は生きもの」といいます。人間の生活や環境が変化すれば、あいさつの表現も当然、変化していくのです。