その友だちは、名前を真実といった。同じ学年だったが、クラスが一緒になったことはなかった。だから、顔くらいは見知っていても、話したことはなかった。
それでも二人は、すぐに仲良くなった。仲良くなったというより、夢が真実を大好きになったのだ。
好きになった理由はいくつかある。
そもそも夢は、真実の走っている姿が好きだった。真実は、背はそれほど高くなかったが、手足がすらりと長く、ほっそりとした体つきをしていた。夢は密かに、真実のことを「子鹿のようだ」と思っていた。ほっそりとした体つきで校庭を走るその姿は、まるで子鹿が草原を駆けていくようだった。
真実はまた、頭も良かった。勉強もできたのだが、面白いものやことをいくつも知っていた。それで、いろいろなことを夢に教えてくれた。
その中で、陸上部を辞めた理由も教えてくれた。彼女は、「陸上部の情緒的なあり方につき合っていられないから辞めた」のだそうだ。「指導者の気分次第で物事が決まっていくのがイヤ」だったそうである。
「私はもっと、正しくないとイヤなの」と真実は言った。「もっとこう、規律正しく、公平で、首尾一貫性がある──そういうアプローチを踏んでいきたい」
夢はこのとき、真実が何を言っているのか、実際のところはよく分かっていなかった。ただ、そう話すときの真実の顔はとても魅力的で、ぐっと魅入られた。
真実は、目鼻立ちの整った、くっきりとした顔をしていた。夢は、自分の顔を「ぼんやりしている」と思っていたから、真実の顔は憧れだった。それも、夢が真実を好きになった理由の一つだった。
しかし何より好きになった理由は、真実が自分に「居場所」を与えてくれたことだ。夢も目標もなく、ただぼんやりと過ごしていた毎日に、張りと楽しみとを与えてくれた。
もっというと、学校に来るきっかけを与えてくれた。それまでの夢は、学校には来たり来なかったりだった。不登校といってもよかった。