転職サイト「ビズリーチ」などを運営する巨大スタートアップ、ビジョナル。『突き抜けるまで問い続けろ』では創業後の挫折と奮闘、急成長を描いています。2021年4月に東京証券取引所マザーズに上場を果たしたビジョナルを、創業期から支えてきたのが、ベンチャーキャピタルのジャフコグループです。同社のパートナーを務める藤井淳史さんは、創業者の南壮一郎さんが「恩人」と呼ぶ人物の一人。藤井さんは、南さん世代の起業家たちに大きな影響力を与えたのが漫画『ONE PIECE』だと解説します。

■ジャフコグループが見たスタートアップ、ビズリーチ01回目▶「ジャフコ藤井淳史氏「ビズリーチが現代のスタートアップの土台をつくった」」
■ジャフコグループが見たスタートアップ、ビズリーチ02回目▶「ビズリーチ、成長の原動力は「とにかく優秀な人を採りまくる」ことだった」
■ジャフコグループが見たスタートアップ、ビズリーチ03回目▶「ビズリーチ、創業間もない当時に“二足のわらじ”で大成功していた」

弱みは補い合う! 若手経営者に大きな影響を与えた『ONE PIECE』の仲間力創業間もないころからビズリーチを支えたきたベンチャーキャプタル、ジャフコグループ。中でもパートナーの藤井淳史さんは、ビズリーチをよく知る人物の一人だ。

――書籍『突き抜けるまで問い続けろ』の中でも、ビズリーチ創業者の南壮一郎さんは特に、仲間の重要性を強く説いていました。藤井さんから見て、彼らの世代のスタートアップの経営スタイルには、何か特徴はありますか。

藤井淳史さん(以下、藤井) 起業家の経営スタイルは、やはり時代によって違いはあると思います。

 例えば昭和の頃は、起業家は一匹狼みたいなところがありました。ソフトバンクグループ創業者の孫(正義)さんとか、ファーストリテイリングの柳井(正)さんとか。ヤマダ電機の山田(昇)さんもそうかも知れません。みんな、本当に身一つで事業を立ち上げた、いわば偉人ですよね。

 そして恐らく経営者というのは、大体の場合、生き様として格好良くありたいという願望があると思います。では、格好良さは何によって規定されるかというと、これは意外と幼いころに見たアニメなどに依存するのではないかと思っているんです。

 そう考えると昔のアニメは、大半が絶対正義じゃないですか。ひたむきに練習や修行をして、弱みを見せず、完全無欠のヒーローとして、悪役をやっつける。そうしたアニメを見て育った人は、やっぱり強いリーダー像を追っていくのではないでしょうか。

 一方で、アニメは時代とともにテーマや描かれ方が変わってきました。例えば、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』が典型ですが、主人公は完全無欠ではなく、弱さを抱えながら戦っている。自分が完全でなくても大丈夫だという時代になっていったんです。

 あとは『ONE PIECE』のような漫画が流行したことで、仲間と互いの強みを生かしながら、戦っていく世界観が受けるようになった。自分は完璧ではなくても、信頼できる仲間に任せる世界が当たり前になってきました。個人的には、その影響が大きいのではと思ったりするんです。

 マインドセットとして、孤独に戦うよりは、みんなで力を合わせる方が楽しいという雰囲気になっています。「仲間探し」という言葉もよく聞くようになりましたが、間違いなくそれは『ONE PIECE』の影響を受けていますよね。

――するとリーダーは、常に仲間と挑戦できる新しい冒険を開拓していく必要がありますね。

藤井 そうですね。株式上場も果たしたことで、ビジョナルは、創業間もない時期と違って、資金の枯渇に悩む必要はなくなりました。一方で、これからは常に新しい事業を見つけて、会社に集う人々を飽きさせない努力が求められるようになっていく。どんどん事業が広がって、それによっておもしろい仕事が次々と生まれていく好循環こそ、優秀な人を引きつける原動力になると思います。

――南さんの大切な役割の一つは、常に新しい事業のネタを育んでいくことである、と。

藤井 そうですね。それを強く意識されていると、常々感じます。

 いつもお会いすると「何かおもしろいことある?」と口癖のように聞かれます。情報に対する貪欲さは以前より増しているかもしれません。私もよく調べてお話をするようにしようと思っているんですが、南さんは本当によく調べているので、いつも相当、気合を入れて準備しなくてはなりません。

 その意味では、私もビズリーチ、ビジョナルに育てられました。今でも会議は緊張しますが、その緊張感こそが自分の成長にもつながっていると感じています。ビズリーチとビジョナル。彼らのおもしろさは、やっぱり別格ですね。