転職サイト「ビズリーチ」などを運営する巨大スタートアップ、ビジョナル。『突き抜けるまで問い続けろ』では創業後の挫折と奮闘、急成長を描いています。2021年4月に東京証券取引所マザーズに上場を果たしたビジョナルを、創業期から支えてきたのが、ベンチャーキャピタルのジャフコグループです。同社のパートナーを務める藤井淳史さんは、創業者の南壮一郎さんが「恩人」と呼ぶ人物の一人。藤井さんはビズリーチが急成長した原動力は採用にあると語りました。

■ジャフコグループが見たスタートアップ、ビズリーチ01回目▶「ジャフコ藤井淳史氏「ビズリーチが現代のスタートアップの土台をつくった」」

ビズリーチ、成長の原動力は「とにかく優秀な人を採りまくる」ことだった創業間もないころからビズリーチを支えたきたベンチャーキャプタル、ジャフコグループ。中でもパートナーの藤井淳史さんは、ビズリーチをよく知る人物の一人だ。

――ビズリーチ創業者の南壮一郎さんは常に「採用は大事だ」という話をしますよね。

藤井淳史氏(以下、藤井) JAFCOが2億円を出資した後、ビズリーチは事業拡大に突き進むわけですが、印象的だったのは、やはり採用です。とにかく、ものすごい勢いで採用していったんです。

 ビズリーチ事業が立ち上がって3年ほどたった2012年5月くらいのことです。その頃、南さんも事業が成長できると確信を持ったのかもしれないのですが、それこそ「毎月10人採っていくぞ」という勢いだったんです。「次にこういう人が入ってくる」という話はよく聞いていました。

 あるとき、気になって聞いてみたんです。「そんなに採用して、どの部署で働いてもらうんですか」と。すると、南さんは決めてないと言うんです。

「優秀な人が入ってくれば、きっと何かできることがある」と彼は言うんですね。実際、そうした人はビズリーチ内でどんどん自分で仕事をつくっていきました。だから、組織をどう大きくしていくかを考えつつも、常にアンテナを張って優秀な人を意識しながら採用していたんだと思います。

――待っていたら優秀な人は採用できないですからね。

藤井 そうですよね。スタートアップはそれこそ頻繁に組織も変わるし、制度も変わっていきますから、「あなたをこのポジションに」と採用できるのはごくわずかです。そうなると、やっぱり能力が優秀な人を採っていくことが大事なんだと思います。

 ただ、そうは言っても、南さんは闇雲に採用していたわけではないんですよ。その前段階として、事業の仕組みづくりをしっかり構築していたという印象があります。

 恐らく多くの人は、南さんは大胆でイケイケの印象があると思うのですが、見た目とは随分違って、事業に対してものすごく慎重な人なんです。

――検証を十分に重ねて意志決定をしていくというスタイルなのですか?

藤井 はい。事業も、最後のつめまで一切妥協なく細かく見ていきます。採用についてもまさにそうで、実際に当社が投資した後もすぐには人を増やしていないんです。2010年7月末で社員数は7人で、翌年の2011年7月末は21人でした。3倍になったという言い方もできますけど、もとが小さいので、増えたのはたったの十数人なんです。

 ここから徐々に増えていって、次の期末が69人。そして、その次の期末に160人になっています。このあたりから、毎月10人くらい社員を増やしていく流れになっていきます。つまり、本格的に採用のアクセルを踏み込むのに、3~4年かけているんですね。

 この間、事業の組み立てをしっかり検証して、いわゆるダイレクト・リクルーティングが通用するかをしっかり見定めていたんだと思います。

 恐らく今のスタートアップなら資金調達をしたらすぐに採用となると思うんですけれど、ここは南さんの大きな特徴だと思いますね。

――事業に対して極めて冷静に見極めて行動を起こしていくイメージなんですね。

藤井 そうですね。その意味で、南さんは極めてプロジェクト志向の起業家だという印象はあります。

 私自身、これまで色々な起業家とお付き合いしてきました。本当に、様々な生き様の方々がいる中で、あえて起業家を2つのパターンに分けると、人生と事業が一体化しているタイプと、プロジェクトタイプの方がいるんです。

 一体化しているタイプとは、例えば自分はゲームが好きだからゲームで起業するとか、外食チェーンでアルバイトしていて実家も飲食店を経営していたから、外食の世界で会社を興すとか。自分のライフワークとして一つの業界にどっぷりと浸かって経営します。

 一方でプロジェクトタイプは、一つの事業に固執せず、どんどんと新しいことを手掛けていきます。事業を立ち上げることに興味と喜びを感じるタイプで、次々に事業のタネを見つけてきます。南さんは間違いなく、プロジェクト型だと思いますね。
(2021年8月9日公開予定の記事に続く)