もう一つの弱点は「安全性」
事故に遭って無事でいられるかは疑問

 宏光MINIには高強度を実現するための溶接手法があまり使われておらず、ボディ強度は低い。自動ブレーキシステムや衝撃吸収ボディなど、各種装備もそろっていない。

 ここに商機を見いだし、「宏光MINIの安全性を補強する」というビジネスを始める企業まで登場するほどで、ダーツ社というラトビアのカーメーカーは今春、宏光MINIのノックダウン生産を始めている。

 長距離型バッテリー、エアコン、エアバッグ、横滑り防止装置などをダーツ社が独自に付加し、価格は日本円で約130万円だ。それでも確かにEVとしては安いが、スクーターのような値段でEVに乗れるというインパクトは薄まる。

 宏光MINIの安さは安全性を犠牲にして成り立っているのであり、交通量の多い先進国ではスタンダードにはなり得ないだろう。

 特に日本では、今や軽自動車にも高性能な安全装置が装備され、交通事故の死傷者を減らすのに大いに貢献している。

 消費者も、「ちょっとした街乗り」のためにあえてこうした類いのクルマを買うくらいなら、バイクや原付、自転車を選ぶのではないだろうか。

 話はやや脱線するが、実は筆者は先日、山口県の山道をドライブしていた最中に、ある交差点で乗用車と軽自動車の事故に出くわした。

 交差点では直進車が優先だが、対抗右折車が強引に右折を始め、軽自動車にぶつかったのだ。被害に遭った直進車は、スズキの軽自動車「ハスラー」の最新モデル(市場価格は150万円前後)である。

 だが、ハスラーに乗っていた若い女性は、結果的にほぼ無傷で済んだ。対向車が突然右折したのを察知し、女性が瞬間的にフルブレーキをかけたことに加え、車体が衝撃吸収仕様であることが彼女の命を守った。

 これが宏光MINIであった場合の結末は、考えただけでも恐ろしい。

 話題を戻すと、ビジネスモデルが破綻しており、安全性にも課題がある宏光MINIが、日本車の代わりに中国以外の先進国の道路を走る日が来るとは到底思えないのである。

 むしろウーリンにとって勝算があるのは、発展途上国の方であろう。

「脱炭素の潮流が押し寄せる今、世界の自動車メーカーは、発展途上国でも野放図にエンジン車を増やすのが難しくなってきている。ここに目を付けて激安EVを売り込めば、一気にシェアを拡大できる可能性は大いにある」

 発展途上国におけるウーリンの勝算について、日本の自動車部品メーカー社員はこう指摘する。

「クルマは赤字で売るが、家庭用の再生可能エネルギーのインフラとセットで途上国に輸出し、トータルでもうけるなど、採算性を改善するビジネスモデルをウーリンが考えている可能性もある」

 この戦略が現実化した場合、発展途上国でもシェアの高い日本の自動車メーカーは、確かに一時的にシェアを奪われて苦戦するかもしれない。

 だが、宏光MINIのメインターゲットである「クルマなど近距離を走れれば十分。安全性はさておき、安ければ安いほどいい」と考えているユーザーは、たとえ軽自動車においても、安全性と信頼性に優れる日本車を支持している層とは明確に異なる。

 国産メーカーはこの層を捨てて、あくまで正当な技術で、独フォルクスワーゲンやテスラなどの欧米の大手自動車メーカーと、先進国をはじめとする主要なマーケットで勝負すべきではないだろうか。