「夜逃げ後処理屋」の売上は1日最大100万円

「夜逃げ後処理屋」とは、まず不動産オーナーや家賃保証会社との関係を構築し、夜逃げがあった場合に残された荷物の処理を一括して請け負うという仕事である。通常の「不動産清掃事業」との違いは、残置物が多いということ。ただ、「これがおいしいんですよ」と井田は語る。

「『夜逃げ後処理』をしてオーナーや家賃保証会社から貰える手間賃自体は、1回5万~数十万ですよ。まあ、たいしたことはない。作業するバイトの頭数を揃える必要があるから利益もあまり出ないんですよね。でも、それを『廃品回収業』とつなげれば旨味は倍増するんです。オフィスに残されたデスクやイス、PC、スチール棚なんかは、中古でも意外と値が張るものが多い。一応、話としては『引き取った物は捨てますよ』ということになってるけど、それを転売するわけです。そうすれば、運がいいときには、数十万から100万円近くの利益が出るんですよ」

 個人宅よりも会社事務所のほうが効率が良い。個人宅の場合、金目のものは夜逃げの時に持っていかれてしまうからだ。

 ただ、インターネットのECサイトやオークションサイトが流行し始め、途上国・新興国からの輸入品も安価で高品質へと変わるなか、いつしか会社事務所の物品による利益も減少を見せる。そんなとき、井田が次に目をつけたのが「遺品整理屋」だった。

遺品整理業が抱える「民家死骸処理業」の側面

「もう、テレビとか本とかでも取り上げられたりしているんで、だいぶ有名になってきたけど、今でも遺品整理っていうと、なんかすごい細かい作業で尊い仕事みたいに思う人もいるんですよね。まあ、実際のところはそんなの少ないんですよ。特に、私自身に回ってくるのは“民間死骸処理業”みたいなところで……」

 彼が語る「遺品整理業」とはいかなるものなのか。家族もおらず、単身者用のアパートで暮らし、そのまま死を迎える「孤独死」が増加するなか、その処理を請け負っているのは、本来そんなことをする義務もない物件のオーナーや管理会社である。なぜなら、物件から収益をあげるためには、できるだけ早く元の状態を回復する必要があるためだ。

 死者の家族に連絡しようにも、結局連絡のつかない場合も少なくない。まさに先述の佐藤の例がそうであったように、消防・警察や行政は検死をして遺体や最低限の汚物は回収してくれるものの、それ以上のことはない。そこで、彼に「遺品整理」の依頼がやってくるのだという。

 死因が自殺であろうと病気であろうと、彼らが見つけられたときには、糞尿や血液を含めた体液が床に流れ出し、染み込んでいることも少なくない。その処理をするのが井田の仕事だ。