田原総一朗氏が期待する
総裁選の候補は?

 今回はふたを開けてみるまで本当にわからない。僕自身は河野さんに期待しているが、河野さんが当選したら困る人は多い。たとえば河野さんは脱原発派だ。

 2011年の東日本大震災をきっかけとした福島第一原発事故により、日本国内で原発を新設することが難しくなった。東芝は買収した米国の原子力発電子会社、ウェスチングハウス(WH)を通じて米国に原発を建設しようとしたが、原発事故の余波を受ける形で、世界各国の原発の建設計画が軒並みストップ。建設コストの急騰や工期が遅れたことにより、WHは巨額の損失を計上して倒産。東芝は債務超過に陥り、粉飾決算に手を染めることとなった。日立製作所も英国に原発を輸出しようとしたが、震災によって計画を凍結することとなった。

 もう原発推進の時代ではないのだ。米国や欧州の政治家の多くは脱原発を唱えているし、日本でも国民の多くは脱原発派だ。同じく脱原発派の小泉(進次郎)さんも、河野さんへの支持をいち早く表明したね。しかし経済産業省はこれをよくは思っていない。だから河野さんは今は脱原発に関してはトーンダウンしている。

自民党の「派閥」とは一体何か?
なぜ生まれたのか?

――総裁選が近づくと、昔からマスコミは自民党の派閥の動向をクローズアップします。しかし、国民の比較的若い人からは、この派閥というものが一体何なのか、なぜきちんと自分の意思を持って投票できないのか、疑問に思う声も少なくありません。法的に定められた制度でも組織でもない、この「派閥」という任意のグループに違和感を持つ人は多いようです。この自民党の派閥というのは、なぜ生まれたのでしょうか?

 米国や英国などは二大政党制で、たとえば米国は共和党と民主党が交互に政権を担っている。そのような二大政党制の中では、党内の競争よりも他党に勝つことが重要だ。しかし日本は二大政党制ではない。野党が弱すぎるため、自民党以外の政党が政権を奪うことはめったにない。自民党体制が長く続く特殊な国だ。だから自民党内で政策論争をしなければならない。そうしないと全体主義になるからね。

 派閥が生まれた理由は、このように自民党内の論争を活発化させるためだ。一方で、派閥の領袖には資金力のある人物が就いた。金権政治においては、政治資金パーティーや、個人や企業からの献金によって、お金を多く集めることができる人こそが、権力を掌握し、政治的な決定に影響を与えることができる。そしてお金が集まる派閥は大きくなっていく。その派閥に所属すれば、自民党の役員や大臣に選ばれる可能性も高くなる。

――今回の総裁選では、派閥単位で投票先を縛るのではなく、自主投票をするべきという動きも強まっています。実際、自民党内で派閥を越えたグループ「党風一新の会」も結成されました。全衆院議員の3割近くが加わっているようです。河野行革相も、もともと自民党は自主投票であり、派閥で投票を締め付けようとしても、議員も国民もそれが良いとは思っていない、もうそういう時代ではないと、メディアでしきりに語っています。

 自民党の若手や中堅の国会議員は、次の衆院選で自分が落選するのではないかと強い危機感を持っている。そのため、「自分たちが当選するためには誰が総理になることがベストか」を、派閥の親分の言うことにただ従うのではなく自分たちで考え、選ぼうとしている。今の状況では親分の言うことを聞くよりも、衆院選で当選することが大事だからね。また、選挙基盤の弱い彼らは、派閥に埋もれるのではなく、党員や有権者に、自身の存在感をしっかりとアピールしたい。そうしたこともあり、「国民が誰を求めているか?」、このことを非常に注視しているようだ。

――首相の任期満了と衆院選のタイミングが近くなったため、こうした新たな動きが加速したのですね。

 その通りだ。もっと言えば、衆院選がなければ菅さんも辞めなくて済んだだろう。