はじめて派閥の領袖の
思惑が通用しない総裁選

――派閥単位で投票先を決めるのではない自主投票の動きは、以前の自民党総裁選では考えられなかったことでしょうか?

 まったく考えられない。これまでの自民党の総裁は、派閥の領袖たちの思惑で決まった。今回でいえば、安倍さんや麻生さんの意向が大きく影響するはずだった。だがそうではなくなった。

 今回の総裁選は、初めて派閥の領袖の思惑が通用しないこととなる。誰も予測することができない。そういう意味では、これまでにないとてもおもしろい総裁選となる。

――派閥の領袖が若手や中堅の議員たちを抑えることが難しくなると、今後、派閥は解体されていくのでしょうか?

 簡単には解体されないだろう。前述の通り、野党が弱い現在の状況下では自民党内での政策論争が必要だ。また、以前は派閥の領袖は、所属する議員に対して金を配っていた。今は小選挙区制となり、強引な金集めをさせないための政党助成金(政党交付金)もできたからそのような慣習は減っているが、それでも細かな面倒を見ていると思う。

退任を表明した菅首相が異例の訪米
次期総理を待ち受ける2つの大問題

――今月24日、史上初となる対面での日米豪印の首脳会合(通称:クアッド)が行われ、米国から菅首相への招待がありました。バイデン米大統領の強い希望とのことですが、退任を表明した大臣の訪米は異例です。

 次の総裁選で誰が総理になろうと、避けては通れない2つの大きな問題がある。

 ひとつは米中対立。米国は、高い確率で6年以内に中国が台湾を攻撃するとみている。バイデン氏は大統領に就任後初の対面による外国首脳との会談に、菅さんを選んだ。日本を米中対立の「要」と思っているからだ。

 そのとき、今後日本は、米中対立においてどのような役割を担うことができるか検討すると約束をしたはずだ。バイデン氏としてはその約束を果たしてほしいという強い思いがある。それだけ米中対立の状況は差し迫っているということでもある。でも日本側の答えはまだはっきりとは決まっていないだろう。外交関係者はとても悩んでいるはずだ。

 そしてもうひとつは経済。日本は経済が縮小している。日本の名目国内総生産(GDP)が世界全体に占めるシェアは、1980年に9.8%だったものが、1995年には17.6%まで高まった。しかし今は5.7%。30年前の位置付けよりも低く、今後も低下していくとみられている。

 今でも世界第3位のGDPを誇る経済大国ではあるが、それは日本が1億人以上もの人口を保有しているため。日本はOECDで2番目に人口の多い国だ。人口の影響を取り除いた1人当たり名目GDPも下がっている。30カ国以上が加盟するOECDの中でも19番目の水準にまで後退している。

 OECDの調査によると、日本の平均賃金(年間)は加盟国中17位。加盟国の平均額を下回る英国や韓国よりもさらに低い。さらに、スイスの著名なビジネススクールIMD(International Institute for Management Development)が公表した「2020年版世界競争力ランキング」で日本は過去最低となる34位だ。日本経済の立ち位置は急速に弱まってきている。

 日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすると表明しており、これまでの経済政策では日本経済を復活させられないことは明白だ。これもまた大問題である。