ミニ東大な講義をしている場合ではない
地方の国公立大学は知のハブになる

田原 ローカルには、世界レベルの技術を持っている企業がある。世界に輸出して、圧倒的な評価を持っている企業もたくさんある。こういう発想がローカルで、商売としてはグローバルな企業は何が課題だろうか。

冨山 多くの場合、ここでも組織能力の抜本的な強化ということになるでしょう。社内で若手、女性の登用、あとは幹部人材、経営者人材を含めて外部人材を獲得し、活用することです。

 だって世界を相手に直に商売をしていくわけですから、様々な才能が必要となる。国内の大手メーカーの下請けとしてこつこつ技術力を磨いて口を開けて親鳥がエサを運んでくるのを待っているビジネススタイルに未来はありません。

 私が共同経営を務めるIGPI(経営共創基盤)グループでは、中小企業でありながら、そういった新しい人材を外部から大胆に獲得して世界に飛躍していった会社との付き合いもあります。本当に世界に通用する卓越した技術力を持っていれば、人材次第、経営次第でそのような飛躍は可能です。

 その一つの方法論として、日本人材機構(地域企業への経営幹部人材の紹介やコンサルティングを行う企業)のノウハウ――機構では「伴走支援型」と呼んでいます――を地域金融機関に実装してもらう活動も展開していました。北洋銀行、広島銀行、北陸銀行などで機構のノウハウを活用できる体制を整えています。

 人材紹介事業には免許が必要なのですが、2020年2月時点の調査結果によると、地方銀行24行、第二地銀8行が免許を取得しています。ガイドブックも作ったので、これからより多くの銀行が、日本人材機構のノウハウを踏まえて事業を展開することになるでしょう。

 こうした先進的な取り組みをしている地域では、地銀が主役となり、優れた外部人材を東京から獲得する時代に突入するでしょう。

冨山 もう一つ可能性があるのは地方大学なんです。

田原 詳しく聞きたい。

冨山 ローカル経済圏が大事になってくることは間違いないとして、そこで、知のハブになるのも地方国立大学なんですね。

 私たちは、地方企業にいきなり転職することに抵抗があるという人材のために、地方の国公立大学に客員研究員というポストを用意してはどうかと提言しています。

 ある企業とマッチングしたけど、でもいきなり転職は怖いという人が現実にいます。そこで、そういう人材には最初は大学の客員研究員になってもらい、週に3、4日を事前にマッチングした企業の支援、週に1、2日は大学で学習・研究活動に従事してもらう。

 大学側としても東京の社会人がやってきたというので学生にも良い刺激になり、本人はちゃんと分析する時間が取れて、しかも他の研究員や教員からもリアルな話が聞ける。プログラム参加期間中は、ちゃんと月に30万円の報酬が出て、半年間のプログラムを終えれば、人材と企業オーナーで話し合い、フルタイムか副業・兼業で採用しましょうとする。

 もちろん、途中でやめますというのも問題ありません。信州大学や金沢大学ですでに試験的にプログラムが始まって、一定の成果が得られています。こういう仕組みも活用していけば、人材が流動し、地域にもプラスになると考えています。

 ここに来て、実学教育に真剣に取り組もうとしている地方大学が私立、国公立を問わず出てきています。こうした大学が人材面でも、地域企業のCXDXの面でも大きな役割を果たして行ってもらいたいと思います。こんなネットの時代に司馬遼太郎さんの言う「西洋文明の配電盤」の地方版、すなわちミニ東大な講座や講義をやっている場合ではないんです。