変革期に必要なのは、枠の決められた世界の最適化ではなく、
枠そのものを新たに作り上げる能力

 アーキテクト思考とは「抽象化してゼロベースで全体構想を考えること」でした。これはいわゆる「三現主義」と呼ばれる現場・現物・現実という典型的な具体の世界を重視してきたモノづくりの思考とある意味で対照をなします。

 なぜ抽象化が必要かといえば、変革期に必要なのは枠の決められた世界を最適化するのではなく、枠そのものを新たに作り上げる能力だからです。

 もちろん抽象化するためには、初めに具体的事象の観察が求められるので、正確にいえば抽象重視というよりは抽象「化」を重視するということになります。

 モノづくりの方法論として世界中に有名になったカイゼン(KAIZENは英語の辞書にも載っています)活動というのは、「いまあるもの」の改善です。つまり、これは「白紙にゼロベースで構想する」アーキテクト思考とは異なる頭の使い方が求められたということです。

 改善というのは既に80点、90点とれているものを100点(あるいはそれ以上)にするという発想です。この場合に必要なのは、「足りていない10点、20点」にひたすら目を向けてそこをつぶしに行くという「引き算型」の思考回路になりがちですが、逆にゼロベースで物事を考えるときにはわずかな材料からでも更地に構想を考えるという、むしろ「足し算型」の発想が求められます。

 これらの違いを一言で表現すれば、川上の発想と川下の発想の違いということになります。

 建物の構想から建築やITシステムの構想から開発という流れを考えればイメージしやすいかと思いますが、仕事のまだ様々なことがぼんやりとして抽象的で明確に決まっていない川上と、様々な仕様が明確に決まって様々な領域の専門家が関与する川下とでは必要となるスキルや価値観が(時には180度違うと言ってよいほど)異なります。