これからはプラットフォーマーになるか、コンテンツ提供者になるかでしか、高い付加価値は生み出せない

 近年YouTuberが急増し、一時は小学生の「将来なりたい職業」としてYouTuberが上位にランキングしていることもありました。民放やケーブルテレビなどを中心にテレビ番組を制作していた時代は終わり、HuluやNetflixをはじめ数多くの動画配信サービス会社が独自の番組を制作するようにもなりました。

 しかし、コロナ禍の影響もあるとは言え、YouTuberのような一個人がここまでの視聴率を稼ぐようになるとは15年前には想像もつきませんでした。当時は民放各社が大規模な設備を使って番組を制作していて、個人が参入する余地はありませんでした。

 ところが、今ではYouTubeというプラットフォームができたことに加え、スマホのカメラや編集ソフトの品質が向上したことにより、多くの一般人が個人でも番組を制作できるようになりました。

 これは多くのコンテンツビジネスに共通して言えることで、プラットフォームが一元的に整備されていて、コンテンツ自体が視聴者の嗜好に合わせて制作されていることが成功要因となっています。

 日本のモノづくりは、素早く低コストで良い物を作ることに長けていました。いわゆる「早い、安い、うまい」を追求したことで世界を席巻しました。

 しかし、グローバル化とデジタル化によって製造工程の付加価値が著しく低下した今となっては、顧客の体験価値を高めるためのコトづくり発想が欠かせなくなっています。そのためには、バリューチェーン全体を俯瞰して全体構想を描くためのアーキテクト思考が不可欠となります。

 アップルは、前述の通り付加価値の低い製造工程に関しては外部のサプライヤーに任せ、自社は顧客の体験価値を高めることに徹底して取り組みました。結果、品質の高い日本製部品が日の目を見る機会なく、アップルの企業価値ばかりが高まっています。

競合他社製品と比較して高額のiPhoneが、なぜ、いまだに高いシェアを誇っているのか?Photo: Adobe Stock

 アップルはデザイン性に長けてユーザビリティの高い製品を開発するだけでなく、発売後も定期的にOSをアップデートすることで改善に努め、様々なアプリやコンテンツを提供することで消費者を飽きさせません。

 また、自社で運営するアップルストアでは消費者と直接接点を持ち、消費者の声を未来の製品開発に積極的に生かしています。

 今回はアップルの成功要因について解説しました。次回は、今回の学びをどのように身近なビジネスで生かしていくかについて解説したいと思います。

 今後も読者からの質問に答えるかたちで、アーキテクト思考の適用事例を紹介できればと思っています。ポストコロナの新規事業立ち上げ、モノづくり思考からの脱却を目指す企業など、領域は問いません。皆さんが抱えているアーキテクト思考に関連するであろう課題を、置かれている状況とともにこちらから、ご投稿ください。

細谷 功(ほそや・いさお)
ビジネスコンサルタント・著述家
株式会社東芝を経て、アーンスト&ヤング、キャップジェミニ、クニエ等の米仏日系コンサルティング会社にて業務改革等のコンサルティングに従事。近年は問題解決や思考力に関する講演やセミナーを企業や各種団体、大学等に対して国内外で実施。主な著書に『地頭力を鍛える』(東洋経済新報社)、『具体と抽象』(dZERO)『具体⇔抽象トレーニング』(PHPビジネス新書)、『考える練習帳』(ダイヤモンド社)等。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者・IGPIシンガポール取締役CEO
キャップジェミニ・アーンスト&ヤング、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て現職。現在はシンガポールを拠点として政府機関、グローバル企業、東南アジア企業に対するコンサルティングやM&Aアドバイザリー業務に従事。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)、ITストラテジスト。