民主主義の原則を否定されることは耐えきれない
竹内 そうは言っても、民主党政権はあと半年保つかどうかわからないじゃないですか。半年我慢すれば辞めなくても良かったんじゃないですか?
宇佐美 がんばろうとはしたんですけど、耐えきれませんでした。竹内先生たちと一緒に面白いことをやって、ある種燃え尽きてしまった部分もありますが。
何よりも、民主党政権は、法律上の手続きをいとも簡単に無視することが堪え難かったんです。卑近な例ですと公務員の賃金引き下げでしたが、他にも八ッ場ダムの建設中止や浜岡原発停止といった重要な政策判断を、法律上の手続きを無視して勝手に決めてしまう。僕は、まがりなりにも自分が日本というアジアで最も民主的な国で、官僚という民主主義を守る立場にいることを誇りに思っていました。だから、「法律上定められたプロセスに則って皆で議論して決める」という民主主義の原則を平気で侵そうとすることに耐えられなかったんです。
竹内 そう思っている官僚は経産省以外にも多いのですか?
宇佐美 多いと思いますね。とくに、本流の人の中には多いと思います。
竹内 それはどうしてですか?
宇佐美 エース候補のポストというのは法律を取り仕切る仕事なので、彼らにしてみれば、法律上の手続きを無視する民主党政権のやり方は、自分たちの仕事を否定されているようでとてもつらいのではないかと。
竹内 他の省庁の人も同じ気持ちなのかもしれませんね。いい加減なことが堂々とまかり通ると、真面目に頑張っている人が「何やってるんだろう」と思ってしまう。
希望を持てない組織になりつつある現状
宇佐美 最近、新卒採用の削減が決まったようなんですが、これは若手の職員にとって非常に辛いことだと思います。入省して1~2年くらいは、100時間ほどの残業が標準で、年度末や国会開催中の繁忙期になると残業が200時間を超えることもあります。そうすると徹夜も当たり前になり、職場でソファーを並べて寝るような生活で、週に1度や2度しか家に帰れません。
下の世代が入ってこないとなると、そういう生活を長期に渡って強いられることになります。さすがにそれは耐えられないと思います。
竹内 企業にいると下の世代が入っていないということはよくありますね。私なんかはバブル崩壊後に入社した世代なので、ずっと下の世代が入ってこなかったから雑用的な仕事を長くやっていました。
宇佐美 雑用的な仕事でも、割り切れる範囲なら下の世代が入ってこなくても耐えられると思うんですよ。たとえば、夜の8時には帰宅できるとか。ただ夜中の2時や3時までスケジュール調整やコピーや資料整理やお使いのような仕事を強いられて、それが3年、4年も続くと、さすがに心身の不調を訴える人が出てきますよね。
竹内 確かに、夜中の2、3時まで雑用で働くのが3、4年も続くと、さすがに希望が持てなくて辞める人も出てくるでしょうね。自分が本来やるべき仕事が、雑用をこなさなければいけないのでできないんですもんね。
宇佐美 民主党の新卒削減の決定をきっかけに、組織として希望を持てない組織になろうとしているんです。これにはとても大きな危機感を抱いています。
第3回は、メディアと身近で接してきた2人の体験談をもとに、現状のメディアが抱える問題点、個人が情報発信する重要性、さらにOBのあり方まで議論が深まる。次回更新は、12月5日(水)を予定。
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