笑顔をふりまきながらも
主張は押し通す

 Kさんは、一見とても人の良さそうな、親しみの持てる雰囲気を持っています。なので、「この人が、海千山千の強力なビジネスマンが闊歩するアメリカやヨーロッパで、どうやって、自社の技術を売り込んできたのだろう?」と考えると、何とも不思議な感じがしてしまいます。ただでさえ、日本人は世界中で「いいカモ」と思われがちだというのに……。

 Kさんはなぜ、カモにされることなく、相手にとっても自分にとっても良い関係を築き、事業を大きく発展させることができたのでしょうか?

 実は、Kさんはとても物腰が柔らかで、いつも笑顔を絶やさない一方で、主張を絶対に曲げることがなかったのです。

 Kさんは、相手の話をよく聞く人であるのはもちろんなのですが、ずっとお話ししていると、いつの間にかKさんのペースに巻き込まれていくのです。そうすると、話をしているうちにKさんの考え方や方針が、何となく正しい気分になってしまうわけです。

相手を尊重することで
友好的な関係が長続きする

「議論を戦わせて、相手のミスを突き、自分の考えを通す」という方法が有効だと考える人も多いかもしれません。特に、欧米で仕事をしていたら、なおさらです。

 でもそれでは、相手を傷つけてしまう場合があります。傷つけられた相手はどう感じるでしょう? 「もう、こんな奴とは二度と仕事したくない」と思ったり、「こいつともう一度仕事をすることがあれば、徹底的に恥をかかせてやろう」なんて復讐心に燃えたりしてしまうんじゃないでしょうか? これは欧米に限らず、世界中どこでも同じこと。人間の本質によるのです。

 相手を言い負かしたそのときだけは、優越感に浸れます。でも、その相手と持続的に良い関係を築いていくことは難しくなってしまうのです。それは、ビジネスのあり方としては、あまり効率の良い方法ではないですよね。

 Kさんのように、いかにも日本人らしく、周囲を気遣うといった「和」を重んじながらも、譲らない。あわよくば、相手を巻き込んでしまう。こんな方法であれば、相手のプライドを傷つけることはなく、自分のやりたいことも良い形で貫けるのです。

 また、相手を尊重しているという姿勢は崩さないので、友好的な関係を長く保ち続けることができ、互いにメリットが大きいのです。実にしたたかで賢いやり方ではないでしょうか。

「そう言われても、うまくできそうにない……」という人もいるかもしれません。いったんクセ付けされてしまった自分の行動は、そう簡単には方向転換できませんよね。

 でも、解決策はあります。その一つが、「アサーション・トレーニング」。自分の意見を冷静に伝え、かつ相手側の立場をも考慮したコミュニケーションを体得するための、心理学を使った方法です。