できないことは無理せず手放す
──つい正論をぶつけてしまう人は、どのように気持ちを切り替えていくとよいでしょうか。
本田:「自分の意見が正論なのに受け入れられにくい」、「なぜか自分の周りから人が離れていく」と思ったら、自分の意見が第三者の目にどのように映っているのか、意見を聞いてみるとよいと思います。
職場でも友人でも家族でもいいので、身近に相談できる人を見つける、というのが理想的ですが、心理カウンセラーや産業カウンセラーなどの相談の専門家でもいいと思います。
優秀な人ほど責任感が強く、周りの期待に応えようと完璧主義になりがちですが、そうすると仕事で越えるべきハードルが自分のなかでどんどん高くなってしまって、ますます生きづらくなるでしょう。
追い詰められた結果、「なぜ自分ばかり頑張っているんだ?」と、周りの人にももっと正しさを要求したくなってしまうかもしれません。
ですから、相手に正論を言いたくなってしまったら、「自分の考えていることがいくら正しいと思っても、その意見を押し通す必要が今あるかどうかいったん考えよう」と一呼吸置いて、本当にその意見を言うべきなのか冷静に判断できるといいと思います。
──真面目で正義感が強く、仕事をちゃんとやらなきゃ! という気持ちが強いからこそ、周りに対しても妥協ができなくなってしまうのかもしれませんね……。
本田:あとは、あまりにも筋が通らないことが多すぎるときは、その職場自体に大きな問題があるケースや、職場との相性が極端に悪いというケースもありますから、転職を検討するのもひとつの手です。
協調性を重視する職場の場合、周りの働き方を観察してそれとなくフォローを入れたり、全体の空気を読んで根回しをしたり、バランスよく働かないと評価してもらえないことも多いですよね。
人の反応を見て行動するのが苦手な人の場合、協調性を気にしすぎると力を発揮できずに仕事がうまくいかなくなり、本来なら出せていたはずの成果が出せなくなることもあります。
──それだと、長所を打ち消してしまい、短所の解決もできていないという本末転倒な結果になってしまいますね。
本田:自分の仕事に集中し、いい成果を出して貢献できているのならそれでいい。「結果を出していればいい」という、協調性よりも成果主義の会社を探してみるのもよいかもしれません。
それに、何か新しい事業を起こしたり、会社を立ち上げたりする場合、自信と決断力、勢いがある人のほうがうまくいく場合も多いですからね。環境を変えて一気に生きやすくなった、ということもあるかもしれません。
──たしかに、ベンチャー企業だと、経営者の方の手腕で突っ走り、それに他のメンバーがついていく! というケースも多いですよね。
本田:世の中にはいろいろな会社があり、いろいろな働き方があります。
「いまの会社でトラブル続きなら、自分はどこに行ってもダメだ」と決めつけずに、自分のスタイルを見つけてほしいなと思います。
まずは身近なところから「しなくていいこと」を手放して、心のゆとりを取り戻していきましょう。
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長 特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事 精神科医。医学博士
1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。2018年より、同子どものこころの発達医学教室教授。発達障害に関する学術論文多数。英国で発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。日本自閉症スペクトラム学会会長、日本児童青年精神医学会理事、日本自閉症協会理事。2019年、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)に出演し、話題に。著書に『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』(ダイヤモンド社)、『自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体』『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(ともにSBクリエイティブ)、共著に『最新図解 女性の発達障害サポートブック』(ナツメ社)などがある。
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